令和8年2月18日、厚生労働省の「第53回 障害福祉サービス等報酬改定検討チーム」において、
令和8年度障害福祉サービス等報酬改定の具体的内容が公表されました。
本来は3年に1度の改定ですが、今回は“期中改定”として前倒しで実施され、令和8年6月から新しい報酬体系が適用されます。
特に居宅介護事業所にとって最大の影響となるのが「処遇改善加算の大幅拡充」です。
✔ 対象職員の拡大
✔ 加算率の引き上げ
✔ 上乗せ区分(Ⅰロ・Ⅱロ)の新設
✔ キャリアパス要件の引き上げ
そして何より重要なのは、6月から算定するためには4月中に計画書を提出しなければならないという点です。
本記事では、
・今回の改定の背景
・処遇改善加算の具体的な変更点
・4月提出に向けた実務対応
・誓約対応のリスク
を、障がい福祉サービスの居宅介護事業所の実務目線で整理します。
令和8年度改定は「負担」ではなく「経営改善のチャンス」にもなり得ます。
正しく理解し、確実に準備を進めましょう。
はじめに ~今回の報酬改定とは何か、なぜ今重要なのか~
この章のポイント
- 令和8年6月から障害福祉サービスの報酬が変わります
- 通常3年に1度の改定が、今回は「期中改定」として前倒し実施されます
- 最大の変更点は「処遇改善加算の大幅拡充」です
- 4月末までに計画書を提出する必要があります
令和8年(2026年)2月18日、厚生労働省の「第53回 障害福祉サービス等報酬改定検討チーム」において、令和8年度の障害福祉サービス等報酬改定の具体的な内容が発表されました。この改定は令和8年6月1日から施行される予定です。
通常、障害福祉サービスの報酬改定は3年に1度のペースで実施されます。前回は令和6年度に実施されており、本来であれば次回は令和9年度になる予定でした。しかし今回、わずか2年で前倒しして「期中改定」という形で臨時的な見直しが行われることになりました。
なぜこのような異例の改定が行われるのでしょうか?
背景には以下の3つの重要な理由があります。
- 理由1:障害福祉人材の深刻な不足
障害福祉の現場では、慢性的な人材不足が続いています。ヘルパーなどの直接支援職員だけでなく、事務職員や運転手などの確保も困難になっています。 - 理由2:介護分野との賃金格差
介護保険サービスでは、すでに処遇改善に関する大規模な制度改正が進められています。一方、障害福祉サービスは介護分野と比べて賃金水準が低く、優秀な人材が流出してしまう問題が指摘されています。 - 理由3:総合経済対策に基づく緊急措置
国の「総合経済対策」において、福祉・介護分野の賃上げが重要課題とされています。今回の改定は、障害福祉人材の処遇改善を緊急的に実施するものです。
障がい福祉サービス居宅介護事業所にとっての最大の影響
今回の改定が障がい福祉サービスの居宅介護事業所に与える最大の影響は、「処遇改善加算の大幅拡充」です。加算率が引き上げられるだけでなく、対象となる職員の範囲も大きく広がります。

出典:厚生労働省 障がい福祉サービス等報酬改定検討チーム(2026/2/18)
なぜ「今すぐ」動かなければならないのか
令和8年6月から新しい制度が始まるということは、それまでに準備を整えなければなりません。特に重要なのが「処遇改善加算計画書」の提出です。
多くの自治体では、6月から新しい加算を算定するためには、4月中(早い自治体では4月15日まで)に計画書を提出する必要があります。3月中にしっかりと準備を進めることが必要です。
処遇改善加算とは何か ~制度の基本をゼロから理解する~
この章のポイント
- 処遇改善加算は職員の賃金を上げるための国からの上乗せ報酬です
- もらった加算金は必ず職員に配分しなければなりません
- 計画書→賃金配分→実績報告という流れで進みます
処遇改善加算の基本的な仕組み
「処遇改善加算」とは、一言で言えば「障害福祉サービス事業所が職員の賃金を上げるために、国から上乗せでもらえる報酬」のことです。
通常、障害福祉サービスを提供すると「基本報酬」が支払われますが、処遇改善加算はこの基本報酬に「上乗せ」される形で支払われます。
【具体例で理解しましょう】
例えば、ある居宅介護事業所が1か月間サービスを提供して、基本報酬として100万円を請求したとします。
この事業所が「処遇改善加算Ⅰイ」(加算率44.6%)を算定している場合:
100万円(基本報酬)× 44.6%(加算率)= 44.6万円(処遇改善加算)
つまり、合計で144.6万円が事業所に入ることになります。
重要な大前提:加算金は職員のためのお金です処遇改善加算でもらったお金(上記の例で言えば44.6万円)は、事業所の利益にしてはいけません。家賃や光熱費などの経費に使ってもいけません。
必ず全額を職員の給与やボーナスとして支払わなければなりません。
これは法律で定められたルールであり、守らなければ不正請求として加算の返還を求められる可能性があります。
今まで(令和7年度以前)の制度の概要
令和8年6月の改定内容を理解するために、これまでの制度を確認しておきましょう。
- 加算区分は4段階:加算Ⅰ、Ⅱ、Ⅲ、Ⅳの4つの区分がありました。数字が小さいほど要件が厳しく、加算率が高くなります。
- 対象は主に「福祉・介護職員」:ホームヘルパーやサービス提供責任者など、直接支援に携わる職員が中心でした。事務職員などは原則対象外でした。
- 算定要件:「キャリアパス要件(賃金体系の整備や研修計画)」と「職場環境等要件(働きやすい環境づくり)」を満たす必要がありました。
令和8年6月からの主な変更点 ~何がどう変わるのか~
この章のポイント
- 対象職員が「福祉・介護職員」から「障害福祉従事者」全体に拡大
- 加算Ⅰ・Ⅱに「上乗せ区分(ロ)」が新設される
- キャリアパス要件Ⅳが460万円以上に引き上げ
- 職場環境等要件の取り組み数が増加
最大の変更点①:対象者が大幅に拡大される
これが今回の改定で最も大きな変更点です。これまでは主に直接支援を行う「福祉・介護職員」のみが対象でしたが、令和8年6月以降は「障害福祉従事者」全体に拡大されます。
- 従来:ホームヘルパー、サビ管、管理者(兼務)など
- 変更後:事務職員、運転手・送迎スタッフ、相談支援専門員など、事業所で働くほぼすべての職員が対象になります。
これにより、これまで処遇改善加算を使えなかった事務スタッフ等の給与アップにも活用できるようになります。対象拡大に伴い、加算率も以下のように引き上げられます。
| 加算区分 | 令和8年5月まで | 令和8年6月以降 | 引き上げ幅 |
|---|---|---|---|
| 加算Ⅰイ | 41.7% | 44.6% | +2.9 pt |
| 加算Ⅱイ | 40.2% | 43.1% | +2.9 pt |
| 加算Ⅲ | 35.1% | 37.6% | +2.5 pt |
| 加算Ⅳ | 28.0% | 30.2% | +2.2 pt |
最大の変更点②:加算Ⅰ・Ⅱに「上乗せ区分(ロ)」が新設される
令和8年6月以降、加算Ⅰと加算Ⅱに、新しい上位区分が追加されます。
- 加算Ⅰイ(標準):44.6%
- 加算Ⅰロ(上乗せ):45.6%(+1.0%)
この「ロ」の区分は、生産性向上や業務改善に積極的に取り組む事業所を評価するためのものです。取得には後述する「特例要件」を満たす必要がありますが、義務ではありません。無理に上位区分を目指さず、確実な「イ」を選択することも重要な経営判断です。
変更点③:キャリアパス要件Ⅳの引き上げ
加算Ⅰ・Ⅱを算定するための要件の一つ「経験・技能のある職員を1名以上、一定年収以上で雇用すること」の基準額が引き上げられます。
年収440万円以上 ➡ 年収460万円以上
令和8年度中にこの基準を満たせない場合でも、「令和8年度中に対応します」という誓約を行えば、特例的に算定が認められます(ただし、年度末の実績報告で未達成の場合は返還リスクがあります)。
変更点④:職場環境等要件の強化
職員が働きやすい環境を整える「職場環境等要件」の必要項目数が増加します。
- 加算Ⅰ・Ⅱ:全体で13項目以上 → 全体で14項目以上(うち生産性向上3項目以上必須、「現場の課題の見える化」必須)
- 加算Ⅲ・Ⅳ:全体で8項目以上(うち生産性向上2項目以上)


令和8年度特例要件とは ~上乗せ加算Ⅰロ・Ⅱロを取るための条件~
この章のポイント
- 上乗せ区分(Ⅰロ・Ⅱロ)を取るには特例要件が必要
- 「生産性向上の取り組み」と「月給配分」が鍵
- 令和8年度は誓約で可だが、未実施なら返還リスクあり
新設される上位区分「加算Ⅰロ」「加算Ⅱロ」を算定するためには、以下の「特例要件」を満たす必要があります。要件は少し複雑ですが、「ア・イのいずれか」かつ「ウ」を満たす必要があります。
要件ア:生産性向上の取り組みを5つ以上実施(2項目は必須)
以下の取り組みを行う必要があります。
【必須となる2項目】
- 「現場の課題の見える化」(⑱):業務の問題点や課題を洗い出し、文書化・構造化する取り組み。(例:ヒヤリハット分析、業務時間調査など)
- 「業務支援ソフト・情報端末の導入」(㉑):記録・情報共有・請求業務に使えるタブレットやスマホ、ソフトの導入。

【選択可能な残り3つ以上(例)】
- 5S活動(整理・整頓・清掃・清潔・躾)による職場環境整備
- 業務手順書(マニュアル)の作成・整備
- インカムやビジネスチャットツールの導入
- 役割分担の見直し(事務と現場の分業など)
要件イ:社会福祉連携推進法人への所属
(多くの小規模事業所には該当しない場合が多いですが、これに所属していれば要件アの代わりになります)
要件ウ:加算額の2分の1以上を「月給」として配分すること
これが最も重要なハードルです
加算Ⅱロ相当の加算額の半分以上を、「一時金(ボーナス)」ではなく「毎月の給与(基本給または手当)」として支払う必要があります。
一度月給(ベース)を上げると、将来的に経営が悪化しても簡単に下げることはできません。安易に上位区分を狙うと、固定費が増大するリスクがあります。
4月の処遇改善加算計画書提出 ~何を・いつまでに・どのように~
令和8年度の計画書提出のタイムライン(重要)
令和8年6月から新しい加算率で算定を開始するためには、原則として令和8年4月中(自治体によっては4月15日〆切が多い)に計画書を提出する必要があります。
※通常のルールでは「算定月の前々月の末日」ですが、制度改正時は特例スケジュールになることがあります。必ず管轄の行政庁(都道府県や市町村)のホームページ等で期限を確認してください。
計画書に記載する主な内容
- 算定する加算区分:Ⅰイ、Ⅰロ、Ⅱイ…のどれを選ぶか
- キャリアパス要件の整備状況:就業規則の写しや賃金規程など
- 職場環境等要件の取り組み:具体的に何を実施するか
- 賃金改善計画:見込まれる加算総額と、それを誰に・どうやって配分するかの計画
「誓約で可」とはどういう意味か ~絶対に誤解してはいけない点~
今回の改定では、準備期間が短いため、多くの要件について「令和8年度中の対応を誓約すれば算定可」とされています。
しかし、これは「後で必ずやる」という重い約束です。「とりあえず誓約して加算をもらっておこう」と考え、年度末までに要件(ICT導入や賃上げなど)を実施しなかった場合、受給した加算額の全額または一部の返還を求められます。できない約束はしてはいけません。
居宅介護事業所が今すぐやるべきこと ~具体的なアクションプラン~
ステップ1:現在の加算区分の確認
昨年度の計画書を見返し、現在どの要件(キャリアパスⅠ~Ⅳ)を満たしているか確認しましょう。
ステップ2:目標とする加算区分を決める
- 現状維持コース:今の要件のまま「加算Ⅰイ」等を算定。それでも加算率は上がります。最も安全な選択です。
- チャレンジコース:「加算Ⅰロ」等の上乗せを目指す。生産性向上(ICT導入など)と月給アップが可能か慎重に検討が必要です。
ステップ3:職場環境等要件の具体策を決める
項目数が増えています(加算Ⅰなら14項目)。「5S活動(整理整頓)」「マニュアル作成」「定期的なミーティング」など、コストをかけずにできることから確実に選びましょう。
ステップ4:賃金改善計画の作成
新しい加算率で、いくら入ってくるかを試算します(月商×新加算率)。その金額を、新しく対象になった事務職員なども含めて、どのように配分するか計画を立てます。
よくある質問・注意点
Q1. 今回の改定で、何も変えなくてもよいですか?
A. いいえ。たとえ加算区分を変えなくても、加算率が変わるため「計画書」の再提出は必須です。また、職場環境等要件の項目数が増えているため、取り組みを追加する必要があるかもしれません。
Q2. 事務職員は処遇改善加算から給与を上げてもよいですか?
A. はい。令和8年6月以降は「障害福祉従事者」全体に対象が拡大されるため、事務職員や運転手も対象になります。
Q3. キャリアパス要件Ⅳの460万円要件は、どうしても払えない場合どうすれば?
A. 小規模な事業所など、加算額全体が少ない場合には例外規定が適用されることがあります。また、令和8年度中は「誓約」で猶予される措置もあります。
その他の改定事項(参考)
今回の改定では、就労継続支援B型やグループホーム等の「新規開設事業所」に対する基本報酬の引き下げ(令和8年6月以降の新規指定のみ)なども盛り込まれています。
居宅介護には直接関係ありませんが、将来的に多角経営を考えている場合は注意が必要です。

まとめ ~令和8年度に向けた準備のポイント~
- 今回の改定はプラス改定(加算率アップ・対象拡大)であり、事業所にとってチャンスです。
- 4月中に計画書を提出することが当面の最重要タスクです。
- 上乗せ区分(ロ)は無理に狙わず、まずは確実な区分で足元を固めましょう。
- 「誓約」は返還リスクがあるため、慎重に行いましょう。
- 不明な点は、早めに行政書士や社労士にご相談ください。
本資料は令和8年2月18日時点の厚労省資料を基に作成しています。
今後の正式な告示やQ&Aにより、解釈が変更となる可能性があります。
最終的な判断は管轄の行政庁の指示に従ってください。
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もちろん費用は掛かりますが、わずらわしい業務を軽減し、本来の直接支援に集中出来るようになるメリットは大きいのではないでしょうか?
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