【令和8年6月対応】障害児相談支援・特定相談支援も処遇改善加算の対象へ|加算額の目安と取得準備を徹底解説

令和8年6月施行の新設サービス障害児相談支援・特定相談支援での処遇改善加算取得の概要について解説する記事のアイキャッチ画像 福祉施設(障がい・児童)

令和8年6月より、これまで処遇改善加算の対象外とされてきた「障害児相談支援事業所」および「特定相談支援事業所」についても、新たに処遇改善加算の対象に含める、あるいは同等の加算制度を新設する方向で制度改正が進められています。

相談支援専門員の人材確保や定着支援が全国的な課題となる中で、報酬体系の見直しは事業運営に大きな影響を与える可能性があります。

しかし、事業主の立場から見ると、

・実際にどれくらいの加算額が見込めるのか
・常勤1名体制でも意味があるのか
・取得要件は他サービスの処遇改善加算と同じなのか
・新規開設の場合、いつの時点で体制整備が必要か
・既存事業所は何を見直すべきか

といった疑問が生じるのではないでしょうか。

本記事では、障がい福祉サービス事業者を応援する立場から、

  • 制度改正の背景
  • 想定される加算額のシミュレーション
  • 取得要件と体制整備の具体的内容
  • 新規指定事業所の場合の準備事項
  • 既存事業所が見直すべきポイント
  • 実務上の注意点とよくある誤解

を、後から読み返しても理解できるよう、体系的かつ詳細に整理します。

令和8年施行を見据え、早期に準備を進めるための実務資料としてご活用ください。

  1. なぜ今、この加算ができたのか?〜制度の背景と意義〜
    1. 1. 令和8年度「期中改定(臨時改定)」の経緯
    2. 2. 障害福祉分野の人材不足問題
    3. 3. 相談支援が処遇改善加算の対象外だった経緯
    4. 4. 今回の改定目標
  2. 新設される処遇改善加算の概要
    1. 1. 新たに対象となるサービス
    2. 2. 加算率
    3. 3. 加算の性質と活用方法
    4. 4. 加算の計算式
  3. 具体的な加算額のシミュレーション
    1. 基本情報の整理
    2. モデルケース①:小規模 計画相談支援事業所
    3. モデルケース②:中規模 計画相談支援事業所
    4. モデルケース③:障害児相談支援事業所
    5. 【自分で計算する方法】
  4. 📍 札幌市の地域区分と1単位単価
    1. ▶ 地域区分:第7級地(上乗せ割合 3%)
    2. ▶ 相談支援系サービスの1単位単価:10.18円
    3. ▶ サービス別の確認(いずれも人件費割合60%)
    4. ▶ 札幌市ベースの加算額シミュレーション修正版
    5. ⚠ 注意事項
  5. 加算取得のための要件〜2つのルートと選択の考え方〜
    1. 【ルートA:従来の加算Ⅳ相当の要件(標準的な取得方法)】
    2. 【ルートB:令和8年度特例要件(生産性向上型の取得方法)】
    3. 【どちらのルートを選ぶべきか?】
  6. 加算取得の準備〜「新規事業所」と「既存事業所」の違いと各準備事項〜
    1. 【新規事業所(今回初めて処遇改善加算を取得する場合)】
    2. 【既存事業所(他のサービス種別で既に処遇改善加算を取得している場合)】
  7. 処遇改善計画書と実績報告書の提出について
    1. 【処遇改善計画書の提出】
    2. 【実績報告書の提出】
    3. 【要件未達成の場合のペナルティ】
  8. 処遇改善加算と職員への賃金配分のルール
    1. 【賃金改善の原則】
    2. 【配分方法の自由度】
    3. 【配分計画の作成】
  9. 事業主が特に注意すべき重要ポイント
    1. 1. 「誓約」と「実施」を混同しない
    2. 2. 加算は「もらい続けるためのコスト」がかかる
    3. 3. 同一法人の他サービスと合算申請できる場合がある
    4. 4. 地域区分(単位単価)を確認すること
    5. 5. 実績報告書の提出忘れに注意
    6. 6. 令和8年度から要件が厳しくなった部分がある
  10. まとめとチェックリスト
    1. 【全体のまとめ】
    2. 【加算取得のためのチェックリスト】
  11. 【よくある質問(FAQ)】
  12. 【参考資料・問い合わせ先】
    1. ① 厚生労働省:障害福祉サービス等報酬改定の特設ページ
    2. ② 各都道府県:障害福祉課(指定権者)のホームページ(主要例)
    3. ③ 通知:「福祉・介護職員等処遇改善加算等に関する基本的考え方並びに事務処理手順及び様式例の提示について」
    4. 📋 様式ダウンロード(令和7年度版・令和8年6月提出分も同様の書式を使用予定)

1. 令和8年度「期中改定(臨時改定)」の経緯

障害福祉サービスの報酬改定は通常3年に一度行われますが、令和8年度は本来の改定時期ではありません。しかし、今回は異例の「期中改定(臨時改定)」として、令和8年6月に報酬改定が前倒しで実施されることとなりました。これは、令和9年度の通常改定を待つことなく、政府の「デフレ完全脱却のための総合経済対策」の一環として、福祉現場で働く職員の賃上げを迅速に行う必要があると判断されたためです。物価高騰や他産業での賃上げが進む中、公的価格で運営される障害福祉分野においても、緊急かつ機動的な対応が求められた結果と言えます。

2. 障害福祉分野の人材不足問題

現在、障害福祉分野は深刻な人材不足に直面しています。その最大の要因の一つが、全産業平均と比較して依然として低い賃金水準です。高い専門性や責任が求められる職務であるにもかかわらず、処遇が見合っていないという現状が、高い離職率や新規採用の困難さを招いています。特に、制度の中核を担う「相談支援専門員」の不足は深刻で、利用者が計画作成を依頼できる事業所が見つからない「相談難民」の問題も地域によっては発生しています。こうした構造的な課題を解決するためには、一時的な補助金ではなく、報酬制度に組み込まれた恒久的な処遇改善の仕組みが不可欠でした。

3. 相談支援が処遇改善加算の対象外だった経緯

これまで、計画相談支援や障害児相談支援は処遇改善加算の対象外とされてきました。その理由は、相談支援専門員が直接的な身体介護等を行うわけではないことや、制度創設時の経緯など複合的な要因がありましたが、現場からは長年「制度の要である相談支援専門員が対象外なのは不公平だ」という声が強くあがっていました。 しかし、近年では「地域共生社会」の実現に向け、相談支援事業所が果たす役割(ケアマネジメント、地域移行、権利擁護など)の重要性が再認識されています。今回の改定で相談支援事業所も対象に加えられたことは、相談支援専門員が「障害福祉の専門職」として正当に評価されるべき存在であると国が明確に認めたことを意味し、極めて大きな意義があります。

4. 今回の改定目標

今回の改定における最大の目標は、「障害福祉従事者全体への月額1万円相当(約3.3%)」のベースアップを実現することです。従来の処遇改善加算は「福祉・介護職員」が主な対象でしたが、今回は事務職員や相談支援専門員を含む「障害福祉従事者全体」へと対象が拡大されました。さらに、ICT導入などの生産性向上に取り組む事業所には追加の上乗せ(月額0.3万円相当)が用意されており、定期昇給分を含めると最大で月額約1.9万円(約6.3%)の賃上げ効果を見込んでいます。これにより、他産業との賃金格差を縮小し、質の高い人材を確保・定着させる好循環を生み出すことが期待されています。

1. 新たに対象となるサービス

今回の改定で、以下のサービスが新たに処遇改善加算の対象となります。
・計画相談支援(特定相談支援事業所)
障害福祉サービスを利用する障害者(児)に対して、サービス等利用計画の作成やモニタリングを行うサービスです。
・障害児相談支援(障害児相談支援事業所)
通所支援(児童発達支援や放課後等デイサービスなど)を利用する障害児に対して、障害児支援利用計画の作成やモニタリングを行うサービスです。
・地域相談支援(地域移行支援・地域定着支援)
施設や病院から地域生活への移行を支援したり、地域生活を継続するための常時の連絡体制を確保したりするサービスです。
※本ガイドでは、特に事業所数が多い「計画相談支援」と「障害児相談支援」を中心に解説します。

2. 加算率

新たに加算対象となる上記3サービスについては、加算率が一律「5.1%」に設定されました。
他の障害福祉サービス(例:生活介護や就労継続支援など)では、サービスの種類や取得する加算の区分(Ⅰ~Ⅳ)によって細かく率が異なりますが、相談支援については制度導入の初期段階であることを踏まえ、簡素で分かりやすい一律の率が採用されています。この「5.1%」という数字は、相談支援事業所の人件費率や収支状況を勘案し、目標とする月額1万円程度の賃上げを実現するために必要な水準として算出されたものです。

3. 加算の性質と活用方法

処遇改善加算は、事業所の売上や利益を増やすためのものではなく、「全額を職員の賃金改善に充てること」が義務付けられている特殊な報酬です。
事業所に入金された加算額は、そのまま(あるいはそれ以上の金額を)、基本給の引き上げや手当の増額、一時金(賞与)などの形で職員に還元しなければなりません。また、この加算は利用者負担には影響しません(利用者負担額の算定対象外)。したがって、利用者に金銭的な負担を強いることなく、純粋に職員の待遇を改善するための原資として活用することができます。

4. 加算の計算式

具体的な加算額は、以下の計算式で算出されます。

① 加算単位数 = (総報酬単位数※ - 既存の処遇改善加算等) × 5.1%
※基本報酬や他の加算(初回加算など)を含めた1ヶ月の総単位数

② 加算額(円) = 加算単位数 × 地域単価(10円~11.05円)

まず、1ヶ月間のサービスの基本報酬や他の加算を合計した「総単位数」に、加算率である5.1%を掛け合わせます(小数点以下四捨五入)。算出された「加算単位数」に、事業所の所在地によって決まっている「地域単価(1単位あたりの単価)」を掛けることで、実際の受給額(円)が確定します。この計算は利用者ごとに行うのではなく、事業所全体の総単位数に対して行われます。

基本情報の整理

まずは計算の基礎となる基本報酬と地域区分を確認します。

【計画相談支援の基本報酬(令和6〜8年度)】

サービス区分単位数備考
サービス利用支援費(Ⅰ)1,522単位/月取扱件数40件未満
サービス利用支援費(Ⅱ)732単位/月取扱件数40件以上
機能強化型(Ⅰ)〜(Ⅳ)1,864〜1,622単位体制に応じた区分
継続サービス利用支援費(Ⅰ)1,260単位/月取扱件数40件未満
継続サービス利用支援費(Ⅱ)606単位/月取扱件数40件以上

【障害児相談支援の基本報酬(令和6〜8年度)】

サービス区分単位数備考
障害児支援利用援助費(Ⅰ)1,625単位/月取扱件数40件未満
障害児支援利用援助費(Ⅱ)814単位/月取扱件数40件以上
継続障害児支援利用援助費(Ⅰ)1,322単位/月取扱件数40件未満
継続障害児支援利用援助費(Ⅱ)661単位/月取扱件数40件以上

【地域区分(1単位の単価)】

地域区分単価該当地域例
1級地11.05円東京23区など
2級地〜6級地10.84円〜10.0円大阪市、横浜市、名古屋市など
その他10.00円上記以外の地域

モデルケース①:小規模 計画相談支援事業所

【前提条件】
・相談支援専門員:1名
・月間取扱件数:20件(サービス利用支援5件、継続サービス利用支援15件)
・地域区分:その他(10円)または1級地(11.05円)

【計算過程】
1. 基本報酬の算出
 (1,522単位 × 5件) + (1,260単位 × 15件) = 7,610 + 18,900 = 26,510単位
2. 加算単位数の算出
 26,510単位 × 5.1% ≒ 1,352単位(四捨五入)
3. 加算額(円)の算出
 ・地域単価10円の場合:1,352単位 × 10円 = 13,520円/月
 ・地域単価10.84円の場合:1,352単位 × 10.84円 ≒ 14,656円/月

【シミュレーション結果】
年間加算総額(10ヶ月分):約13.5万円 ~ 14.7万円
職員1名あたり、月額約1.4万円の昇給原資が確保できます。

モデルケース②:中規模 計画相談支援事業所

【前提条件】
・相談支援専門員:2名
・月間取扱件数:45件(40件以上の減算適用あり)
・月間総単位数(仮定):約65,000単位
・地域区分:その他(10円)

【計算過程】
1. 加算単位数の算出
 65,000単位 × 5.1% ≒ 3,315単位
2. 加算額(円)の算出
 3,315単位 × 10円 = 33,150円/月

【シミュレーション結果】
年間加算総額(10ヶ月分):約33.2万円
職員2名に均等配分した場合、1人あたり月額約1.6万円の処遇改善が可能です。

モデルケース③:障害児相談支援事業所

【前提条件】
・相談支援専門員:1名
・月間取扱件数:25件(障害児支援利用援助5件、継続障害児支援利用援助20件)
・地域区分:その他(10円)

【計算過程】
1. 基本報酬の算出
 (1,625単位 × 5件) + (1,322単位 × 20件) = 8,125 + 26,440 = 34,565単位
2. 加算単位数の算出
 34,565単位 × 5.1% ≒ 1,763単位
3. 加算額(円)の算出
 1,763単位 × 10円 = 17,630円/月

【シミュレーション結果】
年間加算総額(10ヶ月分):約17.6万円
職員1名あたり、月額約1.8万円の賃金改善が見込めます。

【自分で計算する方法】

正確な数値を知りたい場合は、毎月国保連合会から送られてくる「支払決定通知書」または請求ソフトの集計表を確認してください。「処遇改善加算等を除く総単位数」という項目があれば、その数値に0.051を掛けます。地域区分(級地)は、事業所が所在する自治体によって決まっています。ご自身の事業所の地域区分が不明な場合は、指定権者(都道府県や市町村)のホームページ等で「地域区分表」を確認するか、担当課へ問い合わせてください。

▶ 地域区分:第7級地(上乗せ割合 3%)

札幌市は令和6年度〜令和8年度を通じて一貫して 「7級地」 に分類されており、変更はありません。これは札幌市が公式に公開している「単位数単価」別表PDFでも確認されています。

出典:札幌市「単位数単価」別表

▶ 相談支援系サービスの1単位単価:10.18円

1単位単価は「地域区分(上乗せ割合)」と「サービス種別ごとの人件費割合」の組み合わせで決まります。

要素内容
地域区分7級地(上乗せ割合 3%
人件費割合(相談支援系) 60%
計算式10円 × (1 + 3% × 60%) = 10円 × 1.018
1単位単価10.18円

▶ サービス別の確認(いずれも人件費割合60%)

サービス種別人件費割合1単位単価(7級地)
計画相談支援60%10.18円
地域相談支援(地域移行支援)60%10.18円
地域相談支援(地域定着支援)60%10.18円
障害児相談支援60%10.18円

計画相談支援・障害児相談支援・地域相談支援は、いずれも人件費割合が同じ60%グループに属しているため、札幌市では全サービス共通して 1単位 = 10.18円 となります。

▶ 札幌市ベースの加算額シミュレーション修正版

作成した資料のモデルケースに 札幌市(10.18円) を当てはめると以下のようになります。

モデルケース月間加算単位数月間加算額年間加算額(10ヶ月)
①小規模 計画相談(専門員1名・20件)約1,352単位約 13,763円約 137,600円
②中規模 計画相談(専門員2名・45件)約3,315単位約 33,747円約 337,500円
③障害児相談支援(専門員1名・25件)約1,763単位約 17,947円約 179,500円

💡 計算式:月間総報酬単位数 × 5.1%(加算率) × 10.18円(1単位単価) = 月間加算額


⚠ 注意事項

本記事の地域区分情報は令和6年度〜令和8年度の適用地域(厚生労働省・札幌市公式資料)に基づいています。令和9年度以降は改めて地域区分の見直しが行われる場合がありますので、報酬改定のたびに都度ご確認ください。

今回の新設加算を取得するためには、一定の要件を満たす必要があります。取得には大きく分けて「ルートA(標準的な要件)」と「ルートB(生産性向上特例要件)」の2つのルートが用意されており、事業所の状況に合わせて選択することが可能です。

【ルートA:従来の加算Ⅳ相当の要件(標準的な取得方法)】

要件1:キャリアパス要件Ⅰ(賃金体系の整備)

事業所内で、職員の職位、職責、職務内容に応じた「任用要件」と「賃金体系」を整備することが求められます。つまり、「どんな役職があり、どんな仕事をすればいくら給料がもらえるか」をルール化することです。

【具体的な実施方法】
就業規則や賃金規程の中に、明確な記述が必要です。例えば、「相談支援専門員:基本給〇万円」「主任相談支援専門員:基本給〇万円+役職手当〇円」のように、職位ごとの賃金テーブルを作成します。また、それぞれの職位に就くための要件(経験年数や資格など)も明記します。小規模な事業所であっても、代表者の一存で給与が決まるのではなく、書面によるルールに基づいていることが重要です。

【注意点】
口頭での説明や、実態としてルールがあるだけでは不十分です。必ず労働基準監督署への届出(従業員10人以上の場合)や、従業員への周知が行われた「就業規則・賃金規程」として書面化されている必要があります。要件2:キャリアパス要件Ⅱ(資質向上のための研修体制)

職員の資質向上を目的とした研修の機会を確保することが求められます。職員がスキルアップするための具体的な計画を立て、実行する体制を整えることです。

【具体的な実施方法】
年度ごとの「研修計画」を策定します。例えば、「4月:虐待防止研修」「10月:相談支援従事者現任研修への参加」といったスケジュールを立てます。外部研修への参加だけでなく、事業所内での勉強会やOJTも対象となります。実施後は、参加した職員名や日時、内容を記録に残しておく必要があります。

【注意点】
研修を「実施した事実」だけでなく、事前に「計画」を策定していることが要件です。行き当たりばったりではなく、計画的な人材育成が求められます。要件3:職場環境等要件

賃金改善以外で、職員が働きやすい環境を作るための取り組みを実施することです。令和8年度の要件(加算Ⅲ・Ⅳ準拠)では、以下の区分から全体で8項目以上の実施が必要です。また、各区分から1つ以上、生産性向上項目は2つ以上という内訳要件があります。

  • 入職促進に向けた取組(例:他産業からの転職者への優遇措置)
  • 資質の向上やキャリアアップに向けた支援(例:資格取得支援)
  • 両立支援・多様な働き方の推進(例:有給休暇取得促進)
  • 腰痛を含む心身の健康管理(例:健康診断の実施)
  • 生産性向上のための業務改善の取組(例:業務マニュアルの作成)
  • やりがい・働きがいの醸成(例:ミーティング等による意見交換)

★ルートAのポイント(重要)
令和8年度に限っては、これらの要件をすべて満たしていなくても、年度内に整備することを約束する「誓約書」を提出すれば、6月から加算の算定を開始できます。ただし、これは「後回しにしてよい」という意味ではありません。令和9年3月末までに必ず整備を完了させなければなりません。翌年度の実績報告書で整備状況が確認され、もし未整備だった場合は、受け取った加算の全額返還を求められるリスクがあります。

【ルートB:令和8年度特例要件(生産性向上型の取得方法)】

以下の「ア」または「イ」のいずれかを満たし、かつ「ウ」を必ず満たす必要があります。ア)生産性向上取組5つ以上

職場環境等要件の「生産性向上のための業務改善の取組」区分から5つ以上実施します。そのうち、以下の2つは必須です。
⑱「現場の課題の見える化」:業務時間の調査や課題の洗い出しを行い、業務改善のポイントを明確にすること。
㉑「業務支援ソフト・情報端末の導入」:記録や請求業務を効率化するソフトやタブレット端末等を導入すること。
これらに加え、さらに3つ以上の取組(マニュアル作成や役割分担の見直しなど)が必要です。イ)社会福祉連携推進法人への所属

社会福祉連携推進法人とは、複数の社会福祉法人等が連携して業務の効率化や人材育成を行うための新しい法人制度です。これに所属している場合は、上記のア)を満たしているとみなされます。(所属することで、人事交流や研修の共同実施などのメリットがあります)ウ)月給への配分(必須)

加算額の一定割合以上を、必ず毎月の給与(基本給や固定手当)で支給しなければなりません。具体的には、上位区分(加算Ⅱロ相当)の計算額の2分の1以上を月給に充てる必要があります。賞与や一時金だけで配分することは認められません。

★ルートBのポイント
ルートBは、すでにICT化が進んでいる事業所や、これから積極的に生産性向上に取り組みたい事業所向けの特例です。こちらも「ア」と「ウ」については、令和8年度中の誓約によって算定開始が可能です。実績報告時に要件を満たしていない場合、返還リスクがある点はルートAと同様です。

【どちらのルートを選ぶべきか?】

ルートAが適している事業所:
・一般的な小規模~中規模の相談支援事業所
・就業規則等の整備を進めたいと考えている事業所
・ICT導入などの準備が十分でない事業所

ルートBが適している事業所:
・すでにタブレットや業務ソフトを導入済みで、業務改善が進んでいる事業所
・賞与よりも月々の給与アップを重視したい事業所
・社会福祉連携推進法人に加盟している事業所

【結論】
多くの相談支援事業所にとっては、「ルートA(標準的な要件)」が現実的で取り組みやすいと考えられます。就業規則の整備などは、事業所運営の基盤強化にもつながるため、この機会にルートAでの取得を目指すことを推奨します。

準備の手順は、今回初めて処遇改善加算を取得する「新規事業所(相談支援単独など)」と、すでに他の障害福祉サービスで加算を取得している「既存事業所(多機能型など)」で異なります。ご自身の状況に合わせて準備を進めてください。

【新規事業所(今回初めて処遇改善加算を取得する場合)】

STEP1:加算取得の方針決定

まず、経営者として加算を取得する意思決定を行います。ルートA・Bのどちらを選択するかを決め、職員に対して「処遇改善加算を取得し、賃金アップを行うこと」を説明します。賃金規定の変更を伴うため、職員の理解と合意形成は不可欠です。STEP2:就業規則・賃金規程の整備(ルートAの場合)

ルートAを選択する場合、最も重要なステップです。就業規則や賃金規程を作成・変更し、以下の内容を盛り込みます。
・職位(等級)の定義:相談支援専門員、管理者、事務員などの区分
・賃金テーブル:各職位における基本給の範囲や昇給ルール
・手当の規定:資格手当や役職手当の金額
作成後は、従業員代表の意見書を添えて、所轄の労働基準監督署へ届け出ます(常時10人以上の事業所は義務、10人未満は準ずる形で整備)。STEP3:研修計画の策定(ルートAの場合)

令和8年度(2026年4月~2027年3月)の研修計画書を作成します。相談支援従事者現任研修などの法定研修だけでなく、事業所内でのケース検討会や、虐待防止研修などの計画を立てます。日時、テーマ、対象者を具体的に記載します。STEP4:職場環境等要件の取組選定・実施開始

職場環境等要件のリストから、自事業所で実施可能なものを8項目以上選びます。「有給休暇の取得促進」「健康診断の実施」「事故発生時のマニュアル整備」など、すでに取り組んでいるものがあれば、それを明文化して記録に残します。実施の証拠となる記録(メール、議事録、写真など)を保管する体制を整えます。STEP5:賃金改善計画の策定

第3章のシミュレーションを参考に、年間の加算見込額を計算します。その金額以上になるように、職員への配分計画を立てます。「基本給を一律〇円上げる」のか、「新たな処遇改善手当を新設する」のか、配分方法を決定します。この際、法定福利費(社会保険料の会社負担分)の増加分も賃金改善額に含めることができます。STEP6:処遇改善計画書の作成・提出

厚生労働省または各都道府県が指定する様式(Excelファイル等)を入手し、必要事項を記入します。提出先は、指定権者(都道府県や中核市等)です。令和8年6月15日(予定)までに必着で提出する必要があります。期限を過ぎると6月分からの算定ができなくなるため注意してください。

【既存事業所(他のサービス種別で既に処遇改善加算を取得している場合)】

すでに就労継続支援や生活介護などで加算を取得している事業所は、土台ができているため手続きは簡略化されますが、変更の届出が必要です。STEP1:現在の取得状況確認

現在取得している加算区分(Ⅰ~Ⅳ)と、就業規則等の整備状況を再確認します。相談支援事業所が加算対象に加わることで、全体の要件(特に職場環境等要件の項目数など)に不足が生じないかを確認します。STEP2:計画書の変更・追加申請

既存の処遇改善計画書に、相談支援事業所分を追加する変更届、または新規の計画書を提出します。法人内で複数のサービスを運営している場合、一括して申請(合算申請)することが可能です。これにより、事務処理を一本化できます。提出期限は同様に4月15日または6月15日です。STEP3:賃金改善計画の見直し

相談支援事業所の加算分が増えるため、賃金改善計画全体を見直します。相談支援専門員への配分を厚くするなど、法人全体でのバランスを考慮した再設計が必要です。STEP4:職場環境等要件の確認・追加

令和8年度から要件が一部厳格化(項目数の増加など)される可能性があります。新制度の要件と照らし合わせ、不足している項目があれば追加で実施し、計画書上で誓約します。

【処遇改善計画書の提出】

処遇改善加算を取得するためには、毎年「処遇改善計画書」を提出する必要があります。
提出期限(令和8年度の特例):
・4月・5月分から算定する既存事業所等:令和8年4月15日(予定)
・6月分から新たに算定する相談支援事業所:令和8年6月15日(予定)
通常年度は「算定月の前々月末日」が原則ですが、制度改正時は特例措置がとられます。必ず最新の通知を確認してください。
提出先・様式:
指定権者(都道府県知事や市町村長)に提出します。様式は厚生労働省から示される標準様式が基本ですが、自治体によっては独自のシステムや様式を指定する場合があります。3月上旬頃に新様式案が示される見込みです。

【実績報告書の提出】

計画書を出して終わりではありません。年度終了後には、実際に支払った賃金改善額などを報告する「実績報告書」の提出が義務付けられています。
提出期限:
通常、翌年度の7月末日(最終の加算支払月の翌々月末日)です。
記載内容:
・加算の受給総額
・賃金改善所要額(実際に昇給や手当で支払った総額+法定福利費増加分)
・キャリアパス要件や職場環境等要件の実施状況
特に今回は「誓約」でスタートしているため、この実績報告の時点で「要件が整備完了しているか」が厳しくチェックされます。

【要件未達成の場合のペナルティ】

もし実績報告の時点で、賃金改善額が加算額を下回っていたり、誓約した要件(就業規則の作成など)が未実施だったりした場合、加算額の返還(不正受給として全額返還の場合も)が求められます。さらに、虚偽の報告が悪質と判断された場合は、指定取消などの重い行政処分を受けるリスクもあります。「誓約書」は法的な約束ですので、確実に履行する責任があります。

【重要】「誓約で算定可能」≠「後でやらなくていい」
「とりあえず誓約書を出しておけばお金がもらえる」という軽い認識は禁物です。令和9年3月末までという期限はあっという間に来ます。計画的に準備を進め、必ず年度内に整備を完了させてください。

【賃金改善の原則】

処遇改善加算の鉄則は、「入ってきた加算額以上に、職員の賃金を増やすこと」です。例えば、加算で年間100万円入るなら、職員の給与総額を100万円以上(法定福利費込みでOK)アップさせなければなりません。1円でも残して事業所の利益にしたり、借金返済や設備投資に使ったりすることは禁止されています。

【配分方法の自由度】

加算を「誰に」「いくら」配分するかについては、事業所にある程度の裁量が認められています。
・原則として、相談支援専門員などの「福祉・介護職員」に重点的に配分することが推奨されます。
・ただし、事業所の判断で、事務職員や管理者などに配分することも可能です(今回の改定で対象が広がりました)。
・「全員一律アップ」も「評価の高い職員に厚く配分」も可能です。
・支給形態は、安定的な処遇改善のため「月給(基本給・毎月の手当)」での支給が原則です。一時金(賞与)での支給も可能ですが、特に上位区分を目指す場合は、賞与等への配分を少なくするなどの制限がかかる場合があります。

【配分計画の作成】

計画書には、「誰に」「どんな名目で」「いくら」配分するかの計画を記載します。また、この配分計画については、全職員に周知(掲示や書面配布)することが必須要件です。「自分が加算をもらっていること」を職員が知らない状態は不適切です。【職種別の配分例パターン】

パターン配分方針具体例
A. 専門職重点型相談支援専門員の確保を最優先相談支援専門員:月2万円UP
その他職員:配分なし
B. 全体底上げ型全職員のモチベーション向上相談支援専門員:月1.5万円UP
事務職員:月0.5万円UP
C. 評価連動型能力や実績に応じて配分経験5年以上:月2万円UP
経験5年未満:月1万円UP

1. 「誓約」と「実施」を混同しない

繰り返しになりますが、「誓約書」の提出はあくまで猶予措置です。「これからやります」という法的拘束力のある約束です。日々の業務に追われて、「申請したから大丈夫」と整備を忘れてしまうと、後で返還請求という取り返しのつかない事態になります。カレンダーに「就業規則改定締切」「研修実施日」などを書き込み、確実に実行してください。

2. 加算は「もらい続けるためのコスト」がかかる

加算を取得すると、毎年の計画書・実績報告書の作成という事務コストが発生します。また、研修の記録や会議の議事録などを5年間保管する義務も生じます。これらの事務負担を考慮しても、人材確保というメリットが上回るかどうかを経営判断する必要があります(今回の5.1%という率は、そのコストを補って余りあるメリットがあると考えられます)。

3. 同一法人の他サービスと合算申請できる場合がある

法人で複数の事業所を運営している場合、事業所ごとにバラバラに計算・配分するのは大変です。「法人単位」での一括申請(合算)を活用しましょう。これにより、例えば「A事業所の加算が余った分を、B事業所の職員に配分する」といった柔軟な運用が可能になり、管理も楽になります。

4. 地域区分(単位単価)を確認すること

加算額は「地域単価」によって変わります。東京などの都市部と地方では、同じ単位数でも入金額が異なります。ご自身の事業所の地域区分(1級地~その他)を必ず確認し、正確な収支シミュレーションを行ってください。地域区分は数年に一度見直されることがあります。

5. 実績報告書の提出忘れに注意

毎年の「実績報告書」の提出を忘れると、加算の全額返還を求められます。自治体から督促が来ることもありますが、来ない場合もあります。「7月は実績報告の時期」と年間スケジュールに組み込み、絶対に忘れないようにしてください。

6. 令和8年度から要件が厳しくなった部分がある

今回の改定では、既存の加算(Ⅰ・Ⅱ)についても、「経験・技能のある障害福祉人材の年収要件」が440万円から460万円に引き上げられたり、職場環境等要件の必要項目数が増えたりと、ハードルが上がっている部分があります。既存取得事業所は、要件を満たし続けているかどうかの再チェックが必要です。

【全体のまとめ】

令和8年6月からの処遇改善加算の新設は、相談支援事業所にとって、長年の悲願であった「専門性の正当な評価」への第一歩です。5.1%という加算率は、小規模な事業所にとっても決して小さくない金額です。これを原資に職員の待遇を改善することは、優秀な人材の確保・定着に直結し、ひいては利用者への質の高い支援につながります。
準備には手間がかかりますが、「ルートA」であれば標準的な労務管理の延長線上で取得可能です。この機会を逃さず、ぜひ加算取得に向けた準備を進めてください。事業主様の決断が、事業所の未来と職員の生活を守ります。

【加算取得のためのチェックリスト】

■ 新規事業所用(初めて取得する場合)

項目
加算取得の方針(ルートAかBか)を決定した
職員へ加算取得と賃金改善の方針を説明した
加算見込額をシミュレーションした
賃金改善計画(誰にいくら配分するか)を策定した
就業規則・賃金規程の案を作成した
従業員代表の意見を聞き、労基署へ届け出た(または準備した)
令和8年度の研修計画書を作成した
職場環境等要件(8項目以上)を選定した
処遇改善計画書の様式を入手した
計画書を作成し、提出期限(6/15)までに提出した

■ 既存事業所用(すでに追加取得する場合)

項目
相談支援事業所の追加加算額を試算した
法人全体の賃金改善計画を見直した
職場環境等要件が新基準(項目数増)を満たすか確認した
不足があれば追加の取り組みを決定した
変更届または新規計画書を期限までに提出した

Q. 職員が1名(管理者兼相談支援専門員)だけでも取得できますか?
A. 可能です。法人代表者と同一人物でない限り、労働者性があれば対象となります。ただし、役員報酬のみで給与支払いのない役員等は対象外となる場合があります。

Q. 加算をもらって、赤字の補填に使えますか?
A. 使えません。加算額以上の賃金改善(昇給・手当・賞与)を行うことが絶対条件です。

Q. 6月に間に合わなかったらどうなりますか?
A. 6月からの算定はできず、最短で申請月の翌々月から(例:6月申請→8月から)の算定となります。早めの提出をお勧めします。

① 厚生労働省:障害福祉サービス等報酬改定の特設ページ

資料名URL
【特設ページ】障害福祉サービス等報酬改定検討チーム(最新)https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/other-syougai_446935_00001.html
【PDF】令和8年度障害福祉サービス等報酬改定に関する改定事項https://www.mhlw.go.jp/content/12200000/001658029.pdf
【概要ページ】令和8年度改定の概要(処遇改善加算の対象拡大含む)https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_70634.html

② 各都道府県:障害福祉課(指定権者)のホームページ(主要例)

各都道府県・指定都市で届出窓口が異なります。主要な例は以下のとおりです。

自治体URL
北海道(道管轄分)https://www.pref.hokkaido.lg.jp/hf/shf/217716.html
札幌市(市管轄分)https://www.city.sapporo.jp/shogaifukushi/zigyoshasitei/reiwa_syogukaizen.html
その他の都道府県各自治体の公式サイトで「処遇改善加算」「障害福祉課」で検索してください

⚠️ ポイント:指定権者が「都道府県」か「市区町村(政令市・中核市等)」かによって、提出先が異なります。札幌市内の事業所は札幌市が提出先となります。

③ 通知:「福祉・介護職員等処遇改善加算等に関する基本的考え方並びに事務処理手順及び様式例の提示について」

資料名URL
【厚労省トップページ】通知・様式例・Q&Aがまとめて掲載https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/shougaishahukushi/minaoshi/index_00007.html
【通知本文PDF】障障発0326第4号(令和6年3月)https://www.mhlw.go.jp/content/001223192.pdf
【別紙1(基本的考え方)PDF】https://www.mhlw.go.jp/content/001223193.pdf
【令和7年度通知PDF】(最新版・3.0MB)https://www.mhlw.go.jp/content/001445512.pdf
【令和7年度別紙1PDF】(429KB)https://www.mhlw.go.jp/content/001445514.pdf
【Q&A PDF】(令和6年度版)https://www.mhlw.go.jp/content/001445549.pdf

📋 様式ダウンロード(令和7年度版・令和8年6月提出分も同様の書式を使用予定)

様式名URL
処遇改善計画書(Excel)https://www.mhlw.go.jp/content/001567020.xlsx
実績報告書(Excel)https://www.mhlw.go.jp/content/001567019.xlsx
変更届(Excel)https://www.mhlw.go.jp/content/001445535.xlsx
記載例(計画書)(Excel)https://www.mhlw.go.jp/content/001567021.xlsx
記載例(実績報告書)(Excel)https://www.mhlw.go.jp/content/001567023.xlsx

■ 注釈・免責事項
本資料は、令和8年2月時点で公表されている情報(厚生労働省の検討会資料等)をもとに作成しています。今後、正式な告示や通知の発出により、詳細な要件や様式、スケジュールが変更される可能性があります。実際の申請にあたっては、必ず厚生労働省の最新通知や、管轄の指定権者(都道府県等)の案内を確認してください。

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