令和8年6月から、相談支援事業において新たに処遇改善加算制度が導入される予定です。
これまで処遇改善加算は、主に就労系サービスや生活介護などの障害福祉サービスで算定されてきましたが、今回の制度改正により相談支援事業でも職員の処遇改善を目的とした加算制度が設けられることになります。
しかし実務では
- どの職員まで処遇改善の配分対象になるのか
- 管理者や事務員は対象になるのか
- 就労継続支援B型の処遇改善加算と何が違うのか
- 同一法人で複数事業を運営している場合の配分はどうなるのか
といった点で、事業者の方が迷うケースが多くなるのではないでしょうか。
特に注意が必要なのは、相談支援事業の処遇改善加算は、就労継続支援B型などのサービスと配分対象の考え方が異なる可能性があるという点です。
この違いを理解していないと、処遇改善計画の作成や実績報告の際に混乱が生じる恐れがあります。
そこで本記事では、
- 相談支援事業の処遇改善加算の基本的な仕組み
- 配分できる職員の範囲
- 就労継続支援B型の処遇改善加算との違い
- 事業所運営で注意すべき実務ポイント
について、比較表を使いながら実務目線で詳しく解説します。
制度改正は内容が複雑になりやすいため、
「あとから読み返しても理解できる資料」として使えるよう、できるだけ丁寧に説明しています。
といった点で、事業者の方が迷うケースが多くなることが予想されます。
について、比較表を使いながら実務目線で詳しく解説します。
新設された相談支援事業の処遇改善加算の概要
【重要ポイント】
- 施行日:令和8年6月1日
- 加算率:一律 5.1%
- 区分:1区分のみ(従来の加算Ⅳ相当の要件)
- 誓約制度:令和8年度中の対応を誓約すれば、6月から即算定可能
対象となるサービス
以下の4サービスが新たに処遇改善加算の対象となります。
- 計画相談支援:サービス等利用計画の作成、モニタリング等を行う事業。
- 地域移行支援:入所施設や精神科病院等からの地域生活への移行を支援する事業。
- 地域定着支援:単身生活等のリスクに備え、常時の連絡体制を確保する事業。
- 障害児相談支援:障害児支援利用計画の作成等を行う事業。
加算率と計算方法
加算率は5.1%です。これは、基本報酬や他の加減算を含めた総単位数に乗じて計算されます。
就労系サービスのように加算Ⅰ~Ⅴといった複数の区分は設けられておらず、新設の今回は一律の導入となります。
【計算例】
ある月の基本報酬等の総額が 1,000,000円 の場合
1,000,000円 × 5.1% = 51,000円
※この51,000円が、毎月「処遇改善加算」として事業所に支給されます。
取得のための2つのルート
加算を取得するには、以下のいずれかの要件を満たす必要があります。
- ルート1:加算Ⅳ相当要件
従来の処遇改善加算Ⅳに準ずる要件です。- キャリアパス要件Ⅰ:職位・職責・職務内容に応じた任用要件と賃金体系の整備(就業規則等の作成)。
- キャリアパス要件Ⅱ:資質向上のための計画策定と研修の実施。
- 職場環境等要件:賃金改善以外の職場環境改善の取組(入職促進、資質向上、両立支援など)。
- ルート2:令和8年度特例要件
生産性向上や協働化に取り組む場合等の特例です。- 職場環境等要件の「生産性向上」項目から5項目以上実施、または社会福祉連携推進法人への所属。
- かつ、加算額の2分の1以上を月給(基本給または毎月決まって支払われる手当)で配分すること。
※令和8年度中は、これらの要件を満たすことを「誓約」することで算定が可能です。ただし、年度末の実績報告において未対応が確認された場合、加算の返還が求められますのでご注意ください。
配分できる職員の範囲(相談支援事業)
「障害福祉従事者全体」への拡大
これまでの処遇改善加算は、原則として直接支援を行う「福祉・介護職員」のみが対象でした。しかし、今回の令和8年6月改定では、「障害福祉従事者全体」へと配分対象が拡大されました。
これは、チーム全体で支援を支えている実態を踏まえ、職種による分断を生まないための措置です。
具体的な配分対象者
相談支援事業所においては、以下の職員全員が配分対象となり得ます。
- 相談支援専門員:常勤・非常勤、専従・兼務を問いません。本加算の主たる対象者です。
- 管理者:管理業務のみを行う場合でも、障害福祉従事者として対象になります(相談支援専門員との兼務も可)。
- 事務職員:請求事務、計画案作成の補助、電話対応などを行う職員。
- 運転手:利用者の同行支援等で車両を運転する職員。
- その他のスタッフ:事業所の運営に関わる従業者。
配分の基本的な考え方と実務上の注意
配分対象は拡大されましたが、「誰にいくら配分するか」は事業所の裁量(柔軟な配分)に委ねられています。ただし、制度設立の経緯を踏まえ、以下の点に留意してルールを設計してください。
- 中核職員への重点配分:加算の原資は「相談支援専門員」の業務に対する評価がベースです。相談支援専門員の処遇改善が実感できる配分バランスが推奨されます。
- 配分根拠の明確化:「全員一律」や「職責に応じて傾斜」など、どのような基準で配分するかを決定し、職員へ周知・説明する必要があります。
- 就業規則への反映:賃金体系の変更(手当の新設や増額)となるため、就業規則(賃金規程)の改定が必要です。
就労継続支援B型の処遇改善加算(令和8年6月改定後)
加算区分の詳細
就労継続支援B型においては、既存の区分に加え、生産性向上等を評価する上位区分が新設されます。
- 加算Ⅰイ(10.5%) / 加算Ⅰロ(10.9%・新設):最も高い要件を満たす区分。
- 加算Ⅱイ(10.3%) / 加算Ⅱロ(10.7%・新設):Ⅰに次ぐ要件。
- 加算Ⅲ(8.8%):標準的な区分。
- 加算Ⅳ(7.4%):最低限の要件。
※「ロ」区分(新設)を算定するには、生産性向上項目を5項目以上実施する等の特別要件が必要です。
配分対象と優先順位のルール
就労継続支援B型においても、配分対象は「障害福祉従事者全体」へ拡大されますが、配分の優先順位について明確なガイドラインが存在します。
- 第一優先:福祉・介護職員
生活支援員、職業指導員、サービス管理責任者など、直接処遇を行う職員。 - 第二優先:その他の障害福祉従事者
事務職員、調理員、送迎運転手など。
つまり、「その他の従事者」への配分を行う場合でも、まずは「福祉・介護職員」の賃金改善が十分に行われていることが前提となります。また、経験・技能のある障害福祉人材(勤続10年以上等)については、年収460万円以上を目指す重点配分が求められます(加算Ⅰ・Ⅱの場合)。
月給配分要件
加算額の安定的な還元を図るため、加算見込額の2分の1以上は、一時金(ボーナス)ではなく、「基本給」または「毎月決まって支払われる手当」で改善する必要があります。
【比較表】相談支援事業 vs 就労継続支援B型
相談支援事業と就労継続支援B型では、同じ「処遇改善加算」でもルールが異なります。実務上の主な相違点を整理しました。
| 比較項目 | 相談支援事業 (計画・地移・地定・児相) | 就労継続支援B型 |
|---|---|---|
| 制度の位置づけ | 完全新設(令和8年6月~) | 既存制度の改定・拡充 |
| 加算率 | 一律 5.1% | 7.4% ~ 10.9% (区分により異なる) |
| 加算区分数 | 1区分のみ(加算Ⅳ相当) | 6区分(Ⅰイ/ロ, Ⅱイ/ロ, Ⅲ, Ⅳ) |
| 配分対象範囲 | 障害福祉従事者全体 (相談支援専門員、事務等) | 障害福祉従事者全体 (生活支援員、職業指導員、事務等) |
| 配分ルール (優先順位) | 柔軟な配分が可能 (相談員中心が推奨されるが厳格な順位規定なし) | 優先順位あり 1. 福祉・介護職員 2. その他の職種 |
| 月給配分義務 | 加算額の2分の1以上 | 加算額の2分の1以上 |
| 特例要件 | 活用可 (生産性向上等で算定可) | 活用可 (上位の「ロ」区分算定に必須) |
実務上の主な相違点
最大の相違点は「配分の優先順位」と「加算区分の数」です。就労B型は歴史が長く、直接処遇職員を優先するルールが確立されていますが、新設の相談支援事業は比較的柔軟な設計となっています。しかし、どちらも「月給での配分(ベースアップ)」が強く求められている点は共通です。
両事業を兼営する事業所への特別解説
【原則】事業ごとに「別々に」算定・配分します
同一法人・同一敷地内で「相談支援」と「B型」を運営している場合でも、加算はそれぞれの事業の報酬総額に基づいて計算され、それぞれの事業の計画に基づいて配分されます。合算してどんぶり勘定で配分することはできません。
職員が兼務している場合の実務
例えば、「相談支援専門員」として週3日、「B型のサービス管理責任者」として週2日勤務している職員がいる場合、実務は複雑になります。
1. 勤務時間による按分(あんぶん)
加算の配分原資を計算する際、あるいは賃金改善額を報告する際、その職員の賃金を勤務時間等の割合に応じて按分する必要があります。
例)給与30万円の職員 → 相談支援(6割):18万円分、B型(4割):12万円分として計算。
2. 計画書・報告書の記載
処遇改善計画書および実績報告書では、事業所ごとにシートが分かれています。兼務職員については、それぞれの事業所のシートに、按分後の数値を記載するか、あるいは「常勤換算上の兼務関係」を明確にしておく必要があります。
よくあるトラブルと対策
トラブル:相談支援の加算が入ったので、法人の全職員(B型含む)に薄く広く配ってしまい、B型の優先順位ルールやベースアップ要件を満たせなくなった。
対策:「どの事業の加算収入を」「どの職員の」「どの業務に対する賃金として」配分したかを明確に管理してください。兼務職員の労働時間管理(タイムカード等での業務区分)がこれまで以上に重要になります。
算定に向けた実務スケジュールと手続き
令和8年6月1日施行に向けたスケジュール
- 令和8年3月~4月上旬:
- 新加算の取得可否の検討
- 配分シミュレーション(誰にいくら配分するか)
- 就業規則(賃金規程)の改定案作成
- 職員への説明と同意
- 令和8年4月15日頃(自治体により異なる):
- 処遇改善計画書の提出期限
- ※新設加算のため、例年より提出期限が後ろ倒しになる可能性がありますが、早めの準備が必要です。
- 令和8年度中の対応を「誓約」する形式で提出。
- 令和8年6月:新加算の算定開始(サービス提供)
- 令和8年8月頃:6月分サービス報酬の入金(加算分が入金開始)
- 令和8年8月給与~:職員への加算配分(賃金改善)の開始
- 令和9年3月:誓約した要件(就業規則変更や職場環境改善)の完了期限
必要な書類
- 福祉・介護職員等処遇改善計画書: 加算見込額、賃金改善見込額、配分方法等を記載した指定様式。
- 就業規則(賃金規程): 「処遇改善手当」等の新設や基本給のベースアップを反映したもの。労働基準監督署への届出が必要です。
- キャリアパス制度の文書化: 職位ごとの役割や賃金テーブルを明文化したもの(ルート1の場合)。
※手続きの詳細は指定権者(都道府県や市町村)の通知を必ず確認してください。
よくある質問(Q&A)
Q1: 相談支援専門員だけに配分しなければいけませんか?
いいえ、必須ではありません。今回の改定で「障害福祉従事者全体」が対象となったため、事務職員や管理者への配分も可能です。ただし、本加算が創設された背景には「相談支援専門員の処遇改善」という強い要望があるという解説もあります。制度趣旨を尊重し、中心的役割を担う相談支援専門員へ適切に(手厚く)配分することが望ましいと考えることができるのではないかと思います。
Q2: 事務職員のみへの配分は可能ですか?
制度の文言上は「障害福祉従事者」であれば可能ですが、実務上は推奨されないのかもしれませんね。相談支援専門員(直接支援を行う職員)を差し置いて、事務職員のみ賃金を上げる合理的な理由を説明することが困難であり、職員間の不公平感や離職を招くリスクがありそうです。
Q3: 管理者への配分はできますか?
はい、可能です。管理者が相談支援専門員を兼務している場合はもちろん、管理業務専従であっても「障害福祉従事者」に含まれるため配分可能だと読み解けます。ただし、役員報酬のみを受け取っている役員(雇用関係がない場合)は対象外となるケースが一般的ですのでご注意ください。
Q4: 加算の計算方法を教えてください。
例)基本報酬+他の加算の合計単位数が 10,000単位(約10万円)の場合
10,000単位 × 5.1% = 510単位(約5,100円)
この5,100円が、その利用者1人あたりの支援に対する処遇改善加算額となります。
事業所全体の売上が月200万円なら、約10万円が加算収入となります。
Q5: 就労B型と相談支援を兼営している場合、加算は合算して配分できますか?
いいえ、原則としてできません。制度上、事業ごとに報酬請求を行い、それぞれの加算収入をそれぞれの事業の従事者に配分する必要がありそうです。ただし、同一人物が兼務している場合は、各事業からの配分額を合算して1つの給与袋で支給することは可能です。その場合でも、内部的な計算根拠(A事業から〇円、B事業から〇円)は明確にしておく必要があるでしょう。
Q6: 令和8年度特例要件の「生産性向上5項目」とは具体的に何ですか?
厚生労働省が定める「職場環境等要件」の中にある「生産性向上のための業務改善の取組」区分の項目です。
具体的には、
「業務マニュアルの作成」
「ICT機器(タブレット等)の導入」
「見守りセンサーの活用」
「5S活動の実践」
「業務の切り分け(ノンコア業務のアウトソース)」
などが挙げられています。
Q7: 月給配分2分の1以上とは、具体的にどう計算しますか?
加算による収入総額(年額)が120万円と見込まれる場合、その半分の60万円以上を、毎月の給与(基本給の昇給や、毎月定額の手当)として支給する必要があるようです。残りの60万円未満については、賞与(一時金)で支給できるでしょう。すべてを賞与で支給することは認められないようです。
まとめ
令和8年6月の報酬改定は、相談支援事業所にとって「初めて処遇改善加算がつく」という極めて大きなチャンスです。加算率5.1%は決して小さくなく、適切に活用すれば、優秀な相談支援専門員の確保・定着、そして事業所の経営安定化に大きく寄与します。
【事業主様が今すぐすべきこと】
- 収支シミュレーション:自社の売上規模でいくらの加算が入るか試算する。
- 配分方針の決定:誰に、どのような形で(手当新設かベースアップか)還元するか検討する。
- 職員への説明:制度の趣旨と自社の方針を丁寧に説明し、納得感を得る。
- 期日管理:4月の計画書提出に遅れないよう準備を進める。
処遇改善加算は、一度取得すると継続的な運用(毎年の計画書・報告書提出、賃金改善の維持)が求められます。また、計算ミスや要件不備があれば、多額の返還金を求められるリスクもあります。


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