障がい福祉の居宅介護事業所が 特定事業所加算 の取得を目指す場合、
職員に対して 計画的な研修の実施 が必要になります。
しかし実際の事業所では、次のような悩みを抱えていることが少なくないのではないでしょうか。
・外部研修を利用したいが受講料が高い
・研修のための交通費や人件費が負担になる
・職員研修を充実させたいが予算に余裕がない
・補助金があると聞いたが申請方法がわからない
このような課題に対して、国の補正予算に基づき実施されている制度が
「障害福祉人材確保・職場環境改善等事業費補助金」です。
この補助金は、障害福祉サービス事業所が
- 人材確保
- 職場環境改善
- 業務効率化
- 職員の処遇改善
- 研修の実施
などの取組を進める際に必要となる費用を支援する制度です。
研修費用や人材育成の取組に活用できる可能性があるため、
特定事業所加算の取得を目指す居宅介護事業所にとっても重要な制度となります。
ただし、この補助金については
- 対象事業所の要件
- 補助対象となる経費
- 申請書類の作成方法
- 申請スケジュール
- 実績報告
- 補助金が必ず交付されるのか
など、事業者として気になる点が多く、
制度を理解しないまま申請を見送ってしまう事業所も少なくありません。
そこでこの記事では、
- 補助金制度の概要
- 補助対象となる事業所
- 補助対象経費(研修費用を含む)
- 実際の申請の流れ
- 申請書類の作成のポイント
- 申請様式のダウンロード先
- 申請スケジュール
- 採択の考え方
- 収支バランスの考え方
- 申請時の注意点
について、北海道の障がい福祉事業所が実務で使える資料としてまとめています。
特定事業所加算の取得を検討している居宅介護事業所の方は、
職員研修の体制整備や費用負担の軽減を検討する際の
参考資料として活用してください。
第1章 補助金制度の概要と創設背景
1-1 なぜこの補助金が創設されたのか
障害福祉サービス分野における人材確保の難しさは、年々深刻度を増しています。少子高齢化による生産年齢人口の減少に加え、他産業との賃金格差、業務の身体的・精神的負担の大きさなどが要因となり、有効求人倍率は全産業平均を大きく上回る高水準で推移しています。特に北海道においては、広大な面積ゆえの移動負担や、冬期間の過酷な労働環境も相まって、都市部・地方部を問わず人材不足が常態化しています。
こうした状況下において、国は「福祉・介護職員処遇改善加算」等の拡充により賃上げを推進してきましたが、足元の物価高騰や他産業の大幅な賃上げ(春闘での高水準な回答など)に対し、公定価格で運営される障害福祉サービスの賃金改善が追いついていないという現状があります。このままでは、既存職員の離職を招き、サービスの維持すら困難になる事業所が続出する恐れがありました。
そこで、令和6年度の障害福祉サービス等報酬改定においては、基本報酬の見直しに加え、さらなる処遇改善の支援策が検討されました。しかし、報酬改定の効果が現場に行き渡るまでにはタイムラグがあります。そこで、「足元の人材確保の課題に即座に対応する」ための緊急支援策として、本補助金が創設されました。単に賃金を上げるだけでなく、テクノロジーの活用や業務分担の見直しなど「生産性向上」とセットで支援することで、持続可能な職場環境を構築することを狙いとしています。
1-2 補助金の正式名称と実施主体
本補助金の正式名称は、
「北海道障害福祉(障害児支援)人材確保・職場環境改善等事業費補助金」
です。これは国の予算事業ですが、実際の運用や交付事務は各都道府県(この場合は北海道)に委任されています。
実施主体は「北海道」となりますが、実際の申請窓口や問い合わせ対応は、北海道庁の委託を受けた事務局や、オンライン申請システム(北海道電子自治体共同システム)を通じて行われます。根拠となるのは、厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部長通知およびこども家庭庁支援局長通知、そしてこれを受けて北海道が制定した「交付要綱」です。
行政書士として注意を促したいのは、都道府県によって細かな運用ルールや提出様式が異なる点です。インターネット上で他県の情報を見かけることがありますが、必ず「北海道」が発信している公式情報(交付要綱や手引き)に基づいて申請を行う必要があります。本ガイドは、北海道の要綱に基づいて作成されています。
1-3 補助金の目的
北海道が定める交付要綱には、本補助金の目的が以下のように定義されています。
【交付要綱上の目的】
「福祉・介護職員の足元の人材確保の課題に対応する観点から、障害福祉現場における生産性を向上し、更なる業務効率化や職場環境の改善を図り、障害福祉(障害児支援)人材確保・定着の基盤を構築する事業所に対する支援を目的とする。」
この目的規定から読み取れる重要なポイントは、単なる「バラマキ」ではないということです。「生産性の向上」「業務効率化」「職場環境の改善」というプロセスを経て、結果として「人材確保・定着」を実現することが求められています。したがって、申請にあたっては「お金を配る」だけでなく、「どのような職場改善を行うか」という計画性(=職場環境改善取組)が必須要件となっているのです。
1-4 処遇改善加算との関係性
多くの事業主様がすでに取得されている「福祉・介護職員処遇改善加算」と本補助金は、密接に関連していますが、その性格は異なります。
処遇改善加算は、毎月の報酬に上乗せして支払われ、恒久的な賃金制度(給与規定等)に組み込むことが求められる「継続的な支援」です。一方、本補助金は、年度単位の事業として実施される「一時的な支援(スポット支援)」の性格が強いものです。
しかし、本補助金の申請要件として「処遇改善加算の算定」が求められている通り、両者は車の両輪の関係にあります。処遇改善加算でベースの給与水準を上げつつ、本補助金で一時金や研修費用、設備投資などの「プラスアルファの改善」を行うことで、より強固な人材定着基盤を作ることが意図されています。
1-5 特定事業所加算取得のための研修との関連性
ここが本ガイドの核心部分です。居宅介護事業所等が経営を安定させるための最重要施策の一つが「特定事業所加算」の取得です。この加算を取得するためには、以下の要件を満たす必要があります。
- 計画的な研修の実施
- 定期的な会議の開催
- 健康診断の実施
- 緊急時対応体制の整備 など
中でも「計画的な研修の実施」は、外部研修への参加費用や講師の招聘費用、教材費など、直接的なコストが発生します。経営体力の乏しい事業所では、このコストがネックとなり、加算取得を躊躇するケースが少なくありません。
本補助金の使途の一つである「職場環境改善のための経費」には、まさにこの「研修費」が含まれます。つまり、「特定事業所加算を取得するために必要な研修費用を、本補助金で賄う」ことが制度上認められているのです。これにより、事業所は持ち出しなし(あるいは最小限の負担)で加算取得に向けた体制整備が可能となります。これは、補助金の趣旨である「生産性の向上」「業務効率化」にも完全に合致します。
1-6 この補助金を活用するメリット
以上の背景を踏まえ、本補助金を活用するメリットを整理します。
第一に、「研修費用の実質的な削減」です。前述の通り、特定事業所加算取得や職員のスキルアップに必要なコストを補助金でカバーできます。
第二に、「人件費の改善による職員定着」です。研修費以外の部分は、職員への一時金として支給可能です。物価高の中で臨時収入があることは、職員のモチベーション向上と離職防止に大きく寄与します。
第三に、「加算取得による収益向上」です。補助金を活用して特定事業所加算(例えば加算Ⅱであれば所定単位数の10%)を取得できれば、来年度以降の売上が恒久的にアップします。これは補助金という一時的な収入を超えた、長期的な経営メリットとなります。
第四に、「三位一体での経営改善」です。処遇改善加算、特定事業所加算、そして本補助金を組み合わせることで、賃金アップ、売上アップ、コスト削減を同時に実現し、強い経営体質を作ることができます。
第2章 補助対象となる事業所の要件
2-1 対象サービス類型
本補助金は、すべての障害福祉サービスが対象となるわけではありません。北海道の交付要綱に基づき、対象となるサービス類型が厳格に定められています。居宅介護事業所を運営されている皆様においては、以下のサービスが対象となります。
まず、メインとなる「居宅介護」は対象であり、交付率(報酬総額に対する補助率)は12.7%と設定されています。同様に、「重度訪問介護」「同行援護」「行動援護」についても、すべて交付率は12.7%です。これらの訪問系サービスは、人件費率が高く、人材確保が特に困難であることから、他のサービス類型(例:就労継続支援B型の5.5%)と比較しても高い交付率が設定されており、手厚く支援されていることが分かります。
一方で、注意が必要なのは「相談支援事業」です。「計画相談支援」「地域相談支援(移行)」「地域相談支援(定着)」「障害児相談支援」は、本補助金の対象外(交付率0%)となっています。もし、皆様の法人が居宅介護と併設して相談支援事業を行っている場合、相談支援事業の報酬分については補助金の計算基礎に含まれない点に留意が必要です。
2-2 処遇改善加算の算定要件
本補助金を受けるための最も重要な前提条件は、「福祉・介護職員等処遇改善加算」を算定していることです。具体的には、以下の要件を満たす必要があります。
基準月において、処遇改善加算(Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ・Ⅳのいずれか)を算定していることが必要です。ここでいう「基準月」とは、原則として令和6年12月を指します。ただし、何らかの事情(例:12月のみ利用者が極端に少なかった等)で12月の報酬総額が著しく低い場合に限り、令和7年1月、2月、3月から選択することも可能です。
注意が必要なのは、「処遇改善加算Ⅴ」のみを算定している事業所です。原則として加算Ⅴは対象外となります。しかし、救済措置として特例が設けられています。基準月において加算Ⅴのみ、あるいは加算未算定であっても、「令和7年4月から処遇改善加算(Ⅰ~Ⅳ)の算定に向けた体制届出を、期限(令和7年4月15日)までに行っている場合」に限り、補助金の対象となります。
行政書士のアドバイス
処遇改善加算をまだ取得していない、あるいは低い区分で算定している事業所様は、この機会に上位区分の取得を強くお勧めします。本補助金の要件を満たすだけでなく、採用競争力の強化に直結します。
2-3 職場環境改善取組の実施要件
単にお金を配るだけでなく、事業所の生産性向上を促すため、以下の3つの区分のうち、いずれか1つ以上の取組を実施することが要件とされています。
① 業務の見える化(洗い出し・棚卸し)
現場の職員がどのような業務に時間を割いているか、現状を把握する取組です。例えば、業務時間調査を実施し、「移動時間」「記録作成時間」「直接介助時間」の割合を算出したり、職員へのヒアリングを通じて「無駄だと感じている業務」をリストアップするなどが該当します。
② 業務改善の体制づくり
業務改善を推進するための組織的な動きです。具体的には、事業所内に「業務改善委員会」や「生産性向上プロジェクトチーム」を立ち上げ、定期的に会議を開催することや、外部のコンサルタントを招いて研修を行うこと、生産性向上に関する外部研修に職員を参加させ、その内容を事業所内で共有することなどが含まれます。特定事業所加算取得のための研修実施は、この区分に該当させることが可能です。
③ 業務内容の明確化と役割分担
専門職でなくてもできる業務(掃除、備品管理、書類整理など)を切り出し、介護助手(周辺業務従事者)や事務員に任せることで、介護職員が専門業務に集中できる環境を作ることです。「介護助手の採用」や「ICT活用による間接業務の効率化(役割分担の見直し)」などがこれにあたります。
これらの取組は、単に「やりました」と口頭で言うだけでなく、実施したことを証明する記録(会議議事録、業務分担表、研修レポート等)を残しておく必要があります。
2-4 対象外となる事業所
要件を満たしているように見えても、以下のケースに該当する場合は補助金の交付対象外となりますので注意が必要です。
まず、「休廃止予定の事業所」です。事業計画書を提出する時点で、休止や廃止が決定している(あるいは予定されている)場合は、人材確保・定着という補助金の目的にそぐわないため対象外となります。
次に、「新規開設事業所」です。本補助金は「基準月(令和6年12月~令和7年3月)」の報酬実績に基づいて補助額が計算されます。したがって、令和7年4月以降に新規開設した事業所については、計算の基礎となる実績が存在しないため、残念ながら今回は対象外となります。
2-5 要件確認チェックリスト
自社が補助対象となるか、以下のチェックリストで確認してください。すべて「はい」であれば申請可能です。
| 確認項目 | チェック |
|---|---|
| 対象サービス(居宅介護、重度訪問介護等)を運営していますか? | □ はい |
| 基準月(R6.12等)に処遇改善加算Ⅰ~Ⅳを算定していますか? (またはR7.4から算定するための届出を済ませましたか?) | □ はい |
| 職場環境改善取組(①見える化、②体制づくり、③役割分担)のいずれかを実施(または実施予定)していますか? | □ はい |
| 現在、事業所の休止・廃止の予定はありませんか? | □ はい |
| 労働法規(最低賃金、労働保険加入等)を遵守していますか? | □ はい |
第3章 補助金の対象経費と使い道
3-1 職場環境改善のための経費
本補助金は、使い道が大きく分けて「職場環境改善」と「人件費改善」の2つに分類されます。ここでは、特定事業所加算の取得にも直結する「職場環境改善のための経費」について詳細に解説します。
1. 研修費
これが最も活用価値の高い項目です。職員のスキルアップや加算要件を満たすために実施する研修にかかる費用全般が対象となります。
- 外部研修受講料・参加費:
特定事業所加算取得のために必要な研修(例:喀痰吸引研修、同行援護従業者養成研修、サービス提供責任者研修など)や、接遇マナー研修、ハラスメント防止研修などの受講料。オンライン研修の受講料も対象です。 - 内部研修の実施費用:
自社で研修を開催する場合の、外部講師への謝金、会場借上料(自社外で行う場合)、研修資料の印刷代など。 - 研修テキスト・教材購入費:
研修で使用する専門書籍、DVD教材、eラーニングシステムの利用料など。 - 研修用備品:
研修を効果的に行うために必要なホワイトボード、プロジェクター、スクリーンなどの購入費用も、職場環境改善に資するものとして認められるケースが多いです。
2. 専門家派遣費用
業務改善や生産性向上を目的として、外部のコンサルタントや社会保険労務士、中小企業診断士などを招聘する費用です。例えば、「業務フローの見直し」や「処遇改善加算のキャリアパス制度構築」のためのコンサルティング費用などが該当します。
3. 会議費
業務改善に向けたプロジェクトチームの会議や、職員全員での業務改善ミーティングを開催する際にかかる費用です。会議室の使用料や、会議で使用する資料代、お茶代(社会通念上妥当な範囲)などが含まれます。
4. 間接支援業務者の募集費
介護職員の負担軽減のために、「介護助手(周辺業務を行うスタッフ)」や「事務員」「清掃スタッフ」などを新たに採用するための求人広告費や紹介手数料が対象となります。
【重要】対象外となる経費
・ICT機器・介護テクノロジー機器の購入費用:
タブレット端末や見守りセンサー、介護ソフトの導入費用などは、本補助金の対象外です(これらは別途「介護テクノロジー導入支援事業」などの補助金があります)。
・福祉・介護職員の募集費用:
直接処遇を行う職員(ヘルパー等)の求人広告費は対象外です。あくまで「間接業務」を行うスタッフの募集費のみが対象です。
・基準月より前に実施した取組の費用:
原則として、基準月以降に発生・支出した費用が対象となります。
3-2 人件費の改善
補助金のうち、職場環境改善経費に使用しなかった残額(あるいは全額)は、職員の「人件費の改善」に充てることができます。
対象となる使途
最も一般的かつ推奨される方法は、「福祉・介護職員への一時金(賞与・ボーナス的な支給)や臨時手当」としての支給です。毎月の給与に上乗せする形でも構いませんが、計算や管理の煩雑さを避けるため、一括または分割での一時金支給を選択する事業所が大半です。
また、賃金改善に伴って増加する「法定福利費(社会保険料や労働保険料)の事業主負担分」も、補助対象経費として計上可能です。例えば、職員に10万円を支給すると、会社負担の社会保険料も約1.5万円増えますが、この1.5万円分も補助金から出して良いということです。
配分対象者については、「福祉・介護職員」が基本ですが、同一事業所で雇用する「その他の職員(事務員、送迎ドライバー、調理員等)」や、「法人本部の職員(当該事業所の業務に関与している場合)」にも配分することが認められています。これにより、事業所全体のチームワーク向上を図ることができます。
対象外の使途
退職金への充当は不可です。また、ベースアップ(基本給の恒久的な引き上げ)への充当は、制度上「想定していない」とされています。これは、補助金が単年度限りであるため、翌年度以降の財源保証がないからです。ただし、経営判断として「補助金終了後も自力で賃金を維持できる」と見込んでベースアップに充てること自体は妨げられていません(推奨はされません)。
3-3 人件費と職場環境改善費の配分
よくある質問として、「人件費と環境改善費の割合に決まりはあるのか?」というものがありますが、配分ルールは設けられていません。
- 全額を「人件費(一時金)」に充てる
- 全額を「研修費(環境改善)」に充てる
- 半分を研修費、半分を一時金にする
いずれも可能です。事業所の現状に合わせて柔軟に決定してください。
行政書士の実務アドバイス
おすすめの配分戦略は、「まず必要な研修・設備投資(環境改善費)を予算化し、残りを全額一時金にする」という方法です。これにより、特定事業所加算取得のための投資を確保しつつ、職員への還元も最大化できます。後述するシミュレーションを参考に計画を立ててください。
3-4 特定事業所加算の研修に活用できる具体例
特定事業所加算を取得するためには、厚生労働省が定める基準に従った研修計画の策定と実施が必要です。具体的には以下のような研修が求められますが、これらはすべて本補助金の対象となり得ます。
- 新規採用職員研修:
採用時のオリエンテーション、接遇、倫理法令順守に関する外部研修への参加費。 - 現任職員研修:
- 移乗介助・身体介護技術研修:外部の専門講師を招いての実技講習費用。
- 救命救急・緊急時対応研修:消防署や赤十字社の講習参加費、AED講習費。
- 感染症対策・食中毒予防研修:保健所等の講習会参加費、衛生管理テキスト代。
- 認知症ケア・障害特性理解研修:専門機関主催のセミナー受講料。
- プライバシー保護・職業倫理研修:弁護士や専門家による講習謝金。
- サービス提供責任者研修:サ責向けのマネジメント研修、計画作成研修等の受講料。
これらの研修を実施する際にかかる費用(受講料、交通費、会場費、講師謝金、教材費)を漏れなく計上することで、加算取得のハードルを大きく下げることができます。
第4章 補助金額の計算方法とシミュレーション
4-1 補助金額の計算式
補助金の支給額は、以下の計算式によって一律に決定されます。事業所が申請した「必要経費」ではなく、「過去の売上」に基づいて上限額が決まる仕組みです。
補助額 = 基準月の報酬総額(国保連審査後) × 12.7%
※1円未満の端数は切り捨てとなります。
※「報酬総額」とは、基本報酬に加え、処遇改善加算や特定事業所加算などを含む、国保連から支払われる総額(利用者負担分を含む総単位数×地域単価)を指します。
※過誤調整(返戻など)があった場合、令和7年3月末までに発生し、4月10日までに国保連に受理されたものは反映されます。
4-2 基準月の選び方
計算の基礎となる「基準月」は、原則として令和6年12月です。多くの事業所はこの月の報酬総額をもとに計算します。
ただし、インフルエンザの流行や年末年始の利用控えなどで、12月の売上が極端に低かった場合は、例外的に令和7年1月、2月、3月の中から任意の月を選択することが認められています。より報酬総額が高い(=補助額が多くなる)月を選ぶことが可能です。ただし、一度申請した基準月は後から変更できないため、慎重に選定してください。
4-3 補助金額シミュレーション表
居宅介護事業所(交付率12.7%)における、月間報酬総額ごとの補助金額早見表です。自社の規模に合わせて目安を確認してください。
| 基準月の月間報酬総額 | 交付率 | 補助金額(概算) |
|---|---|---|
| 50万円 | 12.7% | 63,500円 |
| 100万円 | 12.7% | 127,000円 |
| 150万円 | 12.7% | 190,500円 |
| 200万円 | 12.7% | 254,000円 |
| 300万円 | 12.7% | 381,000円 |
| 500万円 | 12.7% | 635,000円 |
| 1,000万円 | 12.7% | 1,270,000円 |
4-4 研修費への充当シミュレーション
では、実際に補助金をどのように使い切るか、具体的な収支例を見てみましょう。
【モデルケース】
・事業所規模:月間報酬総額 100万円
・職員数:常勤2名、非常勤3名(計5名)
・補助金受取予定額:127,000円
<支出計画>
- 外部研修への参加(職場環境改善)
- サービス提供責任者研修(1名):15,000円
- 同行援護従業者養成研修(1名):30,000円
- 虐待防止・権利擁護研修(全員・オンライン):25,000円
- 研修費小計:70,000円
- 研修用機材の購入(職場環境改善)
- ホワイトボード・マーカーセット:10,000円
- 機材費小計:10,000円
- 職員への一時金支給(人件費改善)
- 補助金総額(127,000) – 環境改善費(80,000) = 残額 47,000円
- 47,000円を職員5名で配分(例:常勤1.2万、非常勤0.7万など)
このように計画することで、持ち出しゼロで8万円分の研修・設備投資ができ、さらに職員にボーナスも支給できます。
4-5 「補助金は必ず降りるのか?」への直接回答
事業主様が最も不安に感じる点かと思います。結論から申し上げますと、本補助金は「コンペ形式(内容の良い事業所だけが選ばれる)」ではありません。「要件を満たしていれば、原則として交付される」性質のものです。
ただし、以下の点には注意が必要です。
- 予算の範囲内であること:国の予算事業であるため、想定を大幅に超える申請があった場合は調整が入る可能性があります(過去の例では稀ですが)。
- 要件不備による不交付:これが最も多いケースです。
- 処遇改善加算を算定していない(届出が間に合わなかった)
- 職場環境改善取組の実施記録がない(申請時は宣言だけで良いが、実績報告時に確認される)
- 申請書類の記載ミス、添付書類の不足
- 休廃止予定であることが判明した
つまり、「審査に落ちる」というよりは、「書類不備や要件未達で弾かれる」リスクがあるということです。本ガイドに従って正しく準備すれば、交付される確率は極めて高いと言えます。
第5章 申請の手順と書類の書き方
5-1 申請手順の全体フロー
申請から受給、報告までの流れは以下の通りです。
- STEP1:事前確認(要件確認・書類準備)
- STEP2:計画書のダウンロード(北海道庁HPより)
- STEP3:計画書の作成(Excel入力)
- STEP4:電子申請(Webフォームからアップロード)
- STEP5:交付決定・入金(7月下旬予定)
- STEP6:実績報告書の提出(事業完了後~翌年3月)
5-2 STEP1:事前確認(要件確認・準備)
申請を始める前に、手元に以下の情報を準備してください。
- 法人情報(登記簿謄本の内容、法人番号など)
- 事業所番号(10桁の番号)
- 基準月(R6.12等)の国保連からの「支払決定通知書」(報酬総額を確認するため)
- 処遇改善加算の算定状況がわかる書類
- 振込先口座情報(通帳のコピー等、国保連登録口座)
5-3 STEP2:計画書のダウンロード
北海道庁のホームページ、または以下のリンクから計画書様式(Excel)をダウンロードしてください。
【ダウンロードURL】
【法人名】人材確保補助金・処遇改善加算計画書一体化様式(北海道様式).xlsx
※必ず「北海道様式」を使用してください。他県の様式では受理されません。
5-4 STEP3:計画書の記載方法
ダウンロードしたExcelファイルを開き、以下の要領で入力します。
(1)法人情報の記載
「基本情報入力シート」に、法人名、代表者職氏名、所在地、電話番号、担当者名などを正確に入力します。
(2)補助対象事業所の記載
事業所名、サービス種別(居宅介護等)、指定権者(北海道、札幌市等)、事業所番号を入力します。
(3)基準月の選択
原則として「令和6年12月」を選択します。特段の事情がない限り変更しないでください。
(4)職場環境改善取組の記載
実施する取組(①業務の見える化、②体制づくり、③役割分担)を選択し、チェックを入れます。具体的内容の欄には、例えば以下のように記載します。
【記載例:②体制づくり(研修)の場合】
「特定事業所加算の取得に向け、全職員を対象とした虐待防止研修および緊急時対応研修を外部講師を招いて実施する。また、研修内容を共有する会議を開催し、マニュアルの見直しを行う。」
(5)補助金の使途の記載
補助金の見込額(自動計算される場合が多いですが、確認してください)に対して、どのように使うか内訳を記載します。「人件費改善額」と「職場環境改善経費」に金額を振り分けます。合計が補助金額と一致するようにしてください。
(6)振込先口座の記載
原則として、国保連に登録されている介護給付費の振込口座が使用されます。計画書上で「国保連登録口座への振込に同意する」旨のチェック欄がある場合は、チェックを入れてください。
5-5 STEP4:電子申請フォームへの提出
作成した計画書(Excelファイル)を、北海道の専用申請フォームからアップロードします。
【提出フォームURL】
https://www.harp.lg.jp/SksJuminWeb/EntryForm?id=0qIQrD9v
※令和7年度の提出期限は令和7年5月7日(水)23:59まででした。現在は受付を終了しています。(※本ガイドは、来年度以降の参考および実績報告のために手順を解説しています)
提出時に押印は不要です。ファイル名は「【法人名】人材確保補助金…xlsx」のように、法人名を書き換えて保存してください。
5-6 STEP5:交付決定の確認と資金受取
審査が完了すると、国保連を通じて交付決定通知が届きます。その後、令和7年7月23日(水)に指定口座へ補助金が一括で振り込まれる予定です(書類不備があった場合は9月以降に遅れることがあります)。
5-7 STEP6:実績報告書の作成・提出
事業完了後(研修実施や一時金支給が終わった後)、必ず「実績報告書」を提出しなければなりません。これを怠ると補助金の返還を求められます。
【実績報告書ダウンロードURL】
【法人名】障害福祉(障害児支援)人材確保・職場環境改善事業実績報告書.xlsx
記載内容は、実際にいくら補助金を受け取り、いくら支出したか(人件費改善額、職場環境改善額)です。1円単位まで正確に記載し、領収書等と整合性を取ってください。
【提出期限】
令和7年8月28日(木)~令和8年3月31日(火)23:59まで
5-8 記載上の注意点(よくある記載ミス)
- 法人名の記載漏れ・誤り:ファイル名だけでなく、Excelシート内の法人名欄も忘れずに入力してください。
- 基準月の選択ミス:実際には売上が低い月を選んでしまい、補助額が少なくなってしまうミスがあります。
- 取組内容の抽象的記述:「研修を実施する」だけでは不十分です。「〇〇に関する外部研修を受講し、レポートを作成する」など具体的に書いてください。
第6章 申請スケジュールと重要な期限
6-1 令和7年度の具体的スケジュール ※参考
令和7年度(2025年度)事業の全体スケジュールは以下の通りです。
| 時期 | 内容 | 備考 |
|---|---|---|
| R7.4.21 | 計画書提出受付開始 | 電子申請 |
| R7.5.7 | 計画書提出締切 | 受付終了 |
| R7.7.23 | 補助金支払(通常分) | 口座振込 |
| R7.8.28 | 実績報告書提出受付開始 | 電子申請 |
| R7.9.19 | 追加支払(不備対応分) | 該当者のみ |
| R8.3.31 | 実績報告書提出締切 | 期限厳守 |
6-2 令和7年度申請期間終了への対応
大変残念ながら、令和7年度分の計画書提出期限(5月7日)は既に過ぎております。現在、新規の申請は受け付けられていません。
しかし、今年度申請に間に合った事業所様においては、これからが本番です。7月に資金を受け取り、計画通りに研修実施や一時金支給を行い、来年3月までに実績報告を行う必要があります。
6-3 来年度以降の申請に向けた準備スケジュール
本補助金のような「人材確保・処遇改善」を目的とした施策は、形を変えて来年度以降も継続される可能性が高いです。来年度のチャンスを逃さないために、今から以下の準備を進めてください。
- 処遇改善加算の維持・上位区分取得:これが全ての基本要件です。
- 特定事業所加算の取得検討:加算取得に必要な要件を洗い出し、来年度の補助金でどの部分をカバーするか計画を練っておきます。
- 職場環境改善取組の継続:日頃から会議録を残す、研修を行うなどの実績を作っておくことが、スムーズな申請につながります。
第7章 補助金が交付されなくなるリスクと注意事項
7-1 補助金返還命令が出るケース
補助金を受け取った後でも、以下のケースに該当すると判断された場合、全額または一部の返還を命じられることがあります。
1. 実績が伴わない場合
「研修費として申請したが、実際には研修を行わなかった」「一時金を支給するとしたが、未払いだった」など、計画と実績が乖離している場合です。
2. 労働法規違反がある場合
賃金台帳の未整備、最低賃金割れ、違法な長時間労働、労働保険(労災・雇用保険)の未加入などが発覚した場合、補助金の交付要件(コンプライアンス遵守)を満たさないとして返還対象となります。
3. 虚偽申請
報酬総額を偽って過大な補助金を受け取ったり、領収書を偽造したりした場合です。これは返還だけでなく、刑事罰の対象にもなり得ます。
7-2 ペナルティの詳細
返還命令が出た場合、単に受け取った額を返すだけでは済みません。
- 違約加算金:補助金受領日から納付日までの日数に応じ、年10.95%の利息が上乗せされます。
- 違約延滞金:返還期限を過ぎても納付しない場合、さらに年10.95%の延滞金が発生します。
7-3 労働法規遵守の重要性
行政書士として特に注意を喚起したいのが「就業規則」と「労働保険」です。職員数が10名未満の事業所では就業規則の作成義務はありませんが、助成金や補助金の申請においては「就業規則(またはそれに準ずる規定)」の提出や整備が求められることがほとんどです。未整備の場合は、早急に専門家(社会保険労務士等)に相談して整備してください。
7-4 監査・実地指導への対応
北海道庁は、補助金の適正な執行を確認するため、抜き打ちでの監査や実地指導を行う権限を持っています。その際、「書類が見当たらない」「説明できない」となると、返還リスクが高まります。
7-5 適切な書類保管(2年間保存義務)
以下の書類は、事業完了後2年間の保存が義務付けられています。専用のファイルを作成し、いつでも提示できるようにしておきましょう。
【保存すべき重要書類】
- 提出した計画書・実績報告書の控え
- 交付決定通知書
- 補助金が入金された通帳のコピー
- 【環境改善の証拠】研修の領収書、研修テキスト、実施報告書、会議議事録、購入備品の写真
- 【人件費改善の証拠】一時金を支給した給与明細、賃金台帳、振込明細書
- 就業規則、労働保険料申告書の控え
第8章 特定事業所加算研修への具体的な活用方法
8-1 特定事業所加算と本補助金の関係
特定事業所加算(特にⅠやⅡ)を取得するには、「計画的な研修の実施」により、職員全員が年間を通じて研修を受ける体制が必要です。本補助金を活用すれば、この研修にかかる「外部コスト」をほぼゼロにすることが可能です。
8-2 研修費用に充当できる具体的な項目
以下のような費用を補助金で賄う計画を立ててください。
- 外部研修受講料:
- 「同行援護従業者養成研修」:約3万円/人
- 「全身性障害者ガイドヘルパー研修」:約2万円/人
- 「喀痰吸引等研修(第3号)」:約2~5万円/人
- 「サービス提供責任者研修」:約1.5万円/人
- 教材費・備品費:
- 最新の介護技術DVDセット:約3万円
- プロジェクター・スクリーン(事業所内研修用):約5~8万円
- 医学書・専門書等の購入:数千円~数万円
8-3 収支の実例
【ケース】月間報酬200万円(補助金25.4万円)の事業所
特定事業所加算Ⅱの取得を目指し、サービス提供責任者2名に高度な研修を受けさせ、全職員向けに実技研修を行う場合。
- サビ責向け外部研修(2名分):40,000円
- 全職員向け外部講師招聘謝金:30,000円
- 研修用プロジェクター購入:60,000円
- 研修費合計:130,000円
補助金残額(254,000 – 130,000)= 124,000円
→ この12.4万円を、職員への一時金として支給。
結果:事業所の持ち出しゼロで加算要件を満たす研修体制が整い、職員にもボーナスが出せました。さらに翌年度からは特定事業所加算による増収が見込めます。
8-4 補助金と研修費支出のタイミングの調整
補助金は7月下旬に入金されます。研修の実施や支払いは「基準月(前年12月)」以降であれば認められますので、すでに行った研修の費用に充てることも可能ですし、入金を確認してから秋以降に研修を行うことも可能です。資金繰りに無理のない計画を立ててください。
第9章 実務アドバイス
9-1 補助金の本来の趣旨を理解した活用を
補助金は「もらえるものはもらっておこう」という姿勢ではなく、「これを機に事業所をどう良くするか」という投資の視点で活用してください。研修を通じて職員がレベルアップすれば、利用者様からの信頼も厚くなり、結果として経営が安定します。
9-2 申請にあたって最低限準備すべき書類のチェックリスト
申請時や実績報告時に慌てないよう、以下の書類は常に最新の状態にしておいてください。
- □ 就業規則(最新の法令に対応しているか確認)
- □ 労働保険(年度更新の手続きが済んでいるか)
- □ 処遇改善加算の計画書・実績報告書の控え
- □ 研修実施記録のテンプレート作成
9-3 処遇改善加算・特定事業所加算・本補助金の三位一体での活用戦略
【勝利の方程式】
- 本補助金を使って、コストをかけずに研修体制・環境を整備する。
- 整備した体制をもとに特定事業所加算を取得し、ベースの報酬単価を上げる(売上アップ)。
- 上がった売上を原資に、処遇改善加算の上位区分を狙い、職員の基本給を上げる(採用力強化)。
このサイクルを回すことが、行政書士が推奨する最も賢い経営戦略です。
9-4 事業主様へのメッセージ
障害福祉サービスの経営は、制度ビジネスです。制度を知っているか知らないかで、数百万、数千万円単位の差がつきます。本補助金はその典型例です。手続きは面倒に感じるかもしれませんが、その対価は非常に大きいです。


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