建設業界では長年、「現場で働く技能者の賃金が十分に確保されていない」という課題が指摘され続けてきました。人手不足や高齢化が深刻化する中で、若手人材の確保が進まない大きな要因の一つが、この賃金水準の問題です。
こうした状況を受けて、国土交通省は業界全体の構造を見直す大きな改革に乗り出しています。その中核となるのが、「労務費に関する基準」を軸とした適正賃金支払いの実現です。
これは単なる賃上げの話ではなく、発注者から元請、元請から下請へと流れるお金の仕組みそのものを見直し、現場で働く技能者に適正な賃金が確実に届くようにするための制度改革です。国が職種ごとの労務費の基準を示し、それを業界全体で守っていくことで、持続可能な建設業を目指すという大きな方向性が示されています。
本記事では、国交省の建設業セミナー資料の内容をもとに、この「労務費基準」の考え方や仕組み、そして元請・下請企業にどのような影響があるのかについて、実務的な視点から詳しく解説していきます。
建設業の現状
年齢階層別の建設技能者数
国交省の資料によると、建設業界は他産業と比べて高齢の技能者が多く若手の割合が多いと言われています。
○60歳以上の技能者は全体の約4分の1(25.3%)を占めており、10年後にはその大半が引退することが見込まれる。
○これからの建設業を支える29歳以下の割合は全体の約12%程度。若年入職者の確保・育成が喫緊の課題。
担い手の処遇改善、働き方改革、生産性向上を一体として進めることが必要

また、建設業技能者の平均年収は他産業と比べてもかなり低いことがわかります。

そのため、国交省では建設業法を改正するなどして、
🔵技能者の賃金を上げられる仕組みを業界全体で抜本的に作り上げよう!
🔵能力や頑張りに応じて、きちんと評価してもらえる仕組みを作ろう!
🔵若手人材が確保できるように仕組みを整えよう!
ということを目標に、建設業界の大改革を行おうとしています。取り組みは令和6年から既に始まっておりますので、現状も含めて建設業界の「賃金改善・処遇改善」についてまとめます。

出典:国交省2026
処遇改善に向けた取組
まず、「担い手3法」といわれる建設業法などを含めた3つの法律を改正して、
下請け業者が自社の技能者に適正な賃金を払えるような仕組みを作りました。
技能者の賃金を上げるには、理屈としてはこうです。
【ゴール】下請会社が自社の技能者に適正な賃金を支払う
↓
【目的地1】そのためには賃金の原資が必要
1次下請から適正な労務費を支払ってもらう
(価格転嫁を労務費で吸収しない)
↓
【目的地2】そのためには元請から適正な労務費を支払ってもらう
(価格転嫁を労務費で吸収しない)
↓
【スタート】そのためには発注者から適正な労務費を支払ってもらう
(価格転嫁を労務費で吸収しない)
★じゃあ「適正な労務費」っていくらなの?
★どうやって下流まで労務費を減らすことなく行き渡らせるの?
★そもそもそんなこと、1事業者の力だけでできないでしょ?
↓
商慣習の変更も含めて、これを国が主導して根底から解決しようとするのが今回の改革です
簡単に図示するとこうなります

その一環として、労務費に関する基準を軸とした適正賃金支払いの実現です。
労務費に関する基準を軸とした適正賃金支払いの実現
末端の技能者まで適正な賃金が行き渡るためには、上流から変える必要があります。
では上流から順に「なに」を「どう」改善していけばよいのかを、国交省は次のように考えているようです。
「労務費に関する基準」により、公共工事・民間工事を問わず、下請取引を含めて
適正な労務費(賃金の原資)を確保するとともに、「CCUSレベル別年収」による、個々の技能者の経験・技能に応じた適正な賃金の支払いを目指す。
つまり、
🔵「労務費に関する基準」を国が設定することで賃金の原資を確保させ
🔵「CCUSレベル別年収」を国が設定することで経験や能力に応じた適正な賃金の支払いを実現
させようという狙いでいま建設業界が大きく動いています。
この流れを実現するために、じゃあ具体的にどんなテコ入れをするのかというのが本題です。

出典:国交省2026
4つの具体策をザックリと説明します。
①見積書に労務費を明示しましょう!
まず国や関係団体が「見積書のひな形」を出します。
下請は職種ごとに出されるそれらの「労務費を明示した見積もり」を参考にしながら、個別の現場ごとに適正な労務費を設定して出しましょう。
発注者や元請も、それが当たり前となるよう、これまでの商慣習を変えて「新たな商慣習」としましょう、ということです。
これを国や専門の団体がイニシアティブをとってやっていくから、資材高騰などを労務費で吸収させることなく、まずは「建設業として必要な労務費」を元請下請で明示することを当たり前にしましょうということです。
②技能者を大切にする企業を取引において優遇しましょう!
せっかくの制度改革も、実施する側にとってメリットが無ければ事項されませんし、うま味がなければ広がっていきません。
そこで国は、「技能者を大切にした処遇を行っている企業には、率先して仕事を回すようにしたり、業務上の優遇を与えましょう」というのが2つ目の取り組んです。
そのためには、まずはそういった処遇改善などの取組をしている企業を「見える化」しますね、ということです。国交省のHPなどに掲載し、優先選択できるようにしているようです。
③上流の注文者が下流で労務費が減らされていないかを確認するようにしましょう!
「コミットメント」というのは、某ジムの「結果にコミットします!」でお馴染みの言葉ですが、要するに、
🔵下請が「私の会社では技能者のために適正な労務費の明示と、適正な賃金の支払いを実行します!」と注文者に請負契約上で「約束」をします。
🔵それを受けて注文者は、受注者がその約束通りに実行しているか書類を提出させて確認する仕組みを導入する。
これがコミットメント制度です。
元請が下請に適正な労務費の支払いをし、下請が自社の技能者に適正な賃金の支払いをするという、まさに「結果にコミット」するんです!
④都道府県ごとにCCUSレベル別年収を設定し、標準額を下回っていたら重点確認の対象にする!
建設業界の課題の1つは、経験や能力が適切に賃金に反映されにくいということでしょう。
そこを改善するのがCCUSレベル別年収でしたよね。令和8年3月に最新版の改訂が出されておりますが、ポイントは1つだけ。
都道府県ごとに設定されたレベル別年収のうち、「標準額」を下回るような賃金の支払いに対しては、不当な労務費のダンピングの恐れがあるとして、行政による「重点確認」の対象にすると明言していることです。
ただし、あくまでもこの標準値は法的な拘束力をもつものではなく、その金額での支払いを義務としているわけではない、と添えられています。
これは行政側の逃げ道だなと個人的に感じます。
これらを踏まえて、国交省の用意したポータルサイトにアクセスすると、職種別に労務費に関する基準を踏まえた「基準値」を算出することが出来ます。下請はこの基準値をもとに見積もりで数字を明示することになります。
労務費に関する基準を踏まえた「基準値」の公表
🔵価格交渉における、本基準に沿った適正な労務費の確保をより円滑に進めるため、国土交通省において、職種分野別に、本基準を踏まえた適正な労務費の具体値を、トンあたり、平米あたり等の「単位施工量当たり労務費」の形で「基準値」として公表。
🔵基準値は、専門工事業団体・元請建設業団体・国土交通省から成る「職種別意見交換会」等を経て決定。
🔵基準値は、標準的な作業内容・施工条件等を前提とした場合の値とし、個別の請負契約においては、受注者が現場ごとに本基準値を踏まえて労務費等を適正に見積もること、また、注文者がそれを尊重することが必要。
※基準値の定めのない職種分野においても、本基準の基本的考え方に沿った「適正な労務費」を確保する必要性に変わりはない。


「労務費に関する基準ポータルサイト」を開設
ではこのような基準値を都道府県別、職種別に算出するにはどうしたらよいのでしょうか?
国交省がご丁寧に、全部用意しております。
「労務費に関する基準ポータルサイト」で検索
https://roumuhi.mlit.go.jp/

ここから、都道府県や職種を選択していくと、ビシッと基準値が表になって出てきます。
お使いください。
ここまでが、まずは「適正な労務費」を明示して、適正な賃金を支払うための仕組みについてでした。

