令和8年6月より、新たに「障害児相談支援」が制度として施行されます。
障がい児支援分野においては、これまで「計画相談支援」や「障害児支援利用援助」等の枠組みで運用されてきましたが、制度改正により相談支援体制の再整理・強化が図られることになります。
しかし、
・既存の相談支援との違いは何か
・現在指定を受けている事業所は何をすべきか
・新規参入する場合の指定申請の流れはどうなるのか
・人員基準や運営基準はどのように変わるのか
といった点について、不安や疑問を抱えている事業主の方も多いのではないでしょうか。
本記事では、顧客である障がい福祉サービス事業者様向けに、
・制度創設の背景
・障害児相談支援の制度概要
・既存サービスとの具体的な違い
・新規指定を受ける場合の手順
・既存事業所が対応すべき事項
・実務上想定される注意点
を、後から読み返しても理解できるよう、できる限り丁寧かつ体系的に整理した資料として解説します。
令和8年施行に向けて、今から準備すべき事項を明確にするための実務ガイドとしてご活用ください。
障害児相談支援制度の概要と法的定義
制度の目的と背景
障害児相談支援とは、障がいのある児童が、その心身の状況や環境、本人および保護者の意向に基づいて、適切な障害児通所支援(児童発達支援、放課後等デイサービス等)を利用できるよう支援する制度です。単にサービスの利用調整を行うだけでなく、継続的なモニタリングを通じて、児童の成長や環境の変化に合わせた支援の見直しを行う「マネジメント」の役割を担います。
従来、障がい児支援は措置制度から契約制度へと移行しましたが、保護者が膨大な情報の中から我が子に最適な事業所を選択することは困難です。そこで、中立的な立場の専門家(相談支援専門員)が介入し、「障害児支援利用計画」を作成することで、ニーズに即した支援体制を構築することを目的としています。
法的根拠と定義
本事業の法的根拠は「児童福祉法」第6条の2の2に規定されています。
【児童福祉法 第24条の26(指定障害児相談支援)】
指定障害児相談支援事業者は、障害児給付決定保護者が障害児通所支援の利用の申請を行う際に、当該障害児の心身の状況、その置かれている環境、障害児等の意向その他の事情を勘案し、利用する障害児通所支援の種類及び内容その他の事項を定めた「障害児支援利用計画案」を作成しなければならない。
具体的には、以下の2つの業務から構成されます。
- 障害児支援利用援助: 通所支援の利用申請時に、アセスメントを行い「利用計画案」を作成すること。また、支給決定後に、関係機関との連絡調整を行い、正式な「利用計画」を作成すること。
- 継続障害児支援利用援助: 一定期間ごとにモニタリング(利用状況の検証)を行い、計画の見直し(通所給付決定の更新申請の勧奨等)を行うこと。
対象となる障害児の範囲
原則として、身体障害、知的障害、精神障害(発達障害を含む)、または難病等の対象となる児童であって、児童発達支援や放課後等デイサービスなどの通所支援を利用する児童が対象となります。
重要な点は、障害者手帳の有無にかかわらず、医師の診断書等により療育の必要性が認められれば対象となる点です。また、18歳未満の児童が主たる対象ですが、例外的に20歳に達するまで通所支援を利用する場合も含まれます。
令和8年6月施行の改正内容
【最重要】令和8年6月改定のポイント
令和8年度の報酬改定は、障害福祉サービス全体としては「経営の適正化」と「質の確保」がテーマですが、相談支援事業においては「人材確保のための処遇改善」が最大の目玉となります。
処遇改善加算の新設・対象拡大
これまで「福祉・介護職員処遇改善加算」等は、直接支援を行う職員(児童指導員や保育士、生活支援員等)が主な対象であり、計画相談支援や障害児相談支援に従事する「相談支援専門員」は対象外とされてきました。これが相談支援専門員の給与水準が上がらない一因となっていました。
令和8年6月の改正(予定)では、この不均衡を是正するため、障害児相談支援事業所および特定相談支援事業所についても、新たな処遇改善加算の対象に含める(または同等の加算を新設する)方向性が示されています。これにより、相談支援専門員の給与アップが可能となり、採用競争力の強化が期待されます。事業主様にとっては、これまで「収益性が低く、人材が集まらない」と敬遠されがちだった相談支援事業に参入する大きなインセンティブとなります。
新規事業所への報酬適正化(特例)との関係
一方で、令和8年6月以降に「新規指定」を受ける一部のサービス(就労継続支援B型、児童発達支援、放課後等デイサービス等)については、基本報酬を引き下げる「応急的な報酬単価の特例」が導入される予定です。これは事業所の急増を抑制し、質の低い事業所を淘汰する目的があります。
ここで注意が必要なのは、「障害児相談支援」自体が報酬引き下げの対象ではないという点です。むしろ相談支援は不足している社会資源であるため、拡充が求められています。ただし、貴社が相談支援事業所と併設して「新規の放課後等デイサービス」を開設する場合、放課後等デイサービス側は報酬減額の影響を受ける可能性があるため、事業計画全体の収支バランスを慎重に検討する必要があります。
なお、重症心身障害児や医療的ケア児など、支援ニーズが高いにもかかわらず受け皿が不足している領域に対応する事業所については、この報酬減額の対象外となる配慮措置(適用除外)が設けられる見込みです。
既存サービス(特定相談支援)との違い
多くの事業主様が混乱されるのが、「特定相談支援」と「障害児相談支援」の違いです。実務上は多くの事業所が両方の指定を受けますが、制度上は明確に区別されています。
| 項目 | 障害児相談支援 | 特定相談支援 (計画相談支援) |
|---|---|---|
| 法的根拠 | 児童福祉法 | 障害者総合支援法 |
| 主な対象者 | 障害児(18歳未満) ※通所受給者証を利用する児童 | 障害者(18歳以上) ※障害福祉サービス受給者証を利用する者 (および一部の障害児) |
| 作成する計画 | 障害児支援利用計画 | サービス等利用計画 |
| 対象サービス | 児童発達支援、放課後等デイサービス、保育所等訪問支援など | 居宅介護(ホームヘルプ)、短期入所、就労継続支援、生活介護など |
| 指定権者 | 市町村 | 市町村 |
| 報酬請求 | 障害児相談支援給付費 | 計画相談支援給付費 |
【実務上の重要ポイント】
障害児であっても、「居宅介護(ヘルパー)」や「短期入所(ショートステイ)」を利用する場合は、障害者総合支援法に基づくサービス利用となるため、「特定相談支援事業所」による「サービス等利用計画」の作成が必要になります。
一方、児童発達支援や放課後等デイサービスのみを利用する場合は、「障害児相談支援事業所」による「障害児支援利用計画」が必要です。
多くの障害児は、通所サービスとヘルパー等を併用するケースがあるため、事業所としては「障害児相談支援」と「特定相談支援」の両方の指定を受けておくこと(並行指定)が一般的かつ推奨されます。
児童発達支援管理責任者との連携
障害児相談支援の質を決定づけるのが、通所サービス事業所(児童発達支援・放課後等デイサービス)に配置されている「児童発達支援管理責任者(児発管)」との連携です。この連携プロセスは法令で義務付けられています。
連携の流れとプロセス
サービス提供は以下のサイクルで進行しますが、相談支援専門員と児発管は常に情報を共有する必要があります。
- 相談受付・アセスメント(相談支援専門員):
保護者のニーズを聞き取り、課題を整理します。 - 利用計画案の作成(相談支援専門員):
どのようなサービスを、どの程度の頻度で利用するかを提案し、市町村に提出します。 - 受給者証の交付(市町村):
支給決定が行われます。 - 担当者会議の開催(相談支援専門員主催):
利用する事業所の児発管、保護者等を招集し、支援の方針を統一します。 - 個別支援計画の作成(児発管):
相談支援専門員が作成した「利用計画」の方針に基づき、より具体的な日々の支援内容を定めた「個別支援計画」を作成します。※ここでの整合性が監査で厳しく見られます。 - サービス提供開始:
計画に基づく支援の実施。 - モニタリング(相談支援専門員):
定期的に利用状況を確認し、児発管から実施状況の報告を受けます。
情報共有の方法と重要性
児発管は、個別支援計画を作成・変更した際には、その内容を相談支援専門員に報告(送付)する義務があります。また、相談支援専門員はモニタリング結果を児発管にフィードバックします。
特に「セルフプラン」(保護者自身が計画を作成する場合)から「相談支援事業所利用」へ切り替えるケースが増えています。これは行政が専門家によるマネジメントを推奨しているためです。事業主様は、自社の通所サービス部門の児発管に対し、外部または自社の相談支援専門員と密に連携を取るよう指導徹底する必要があります。
指定申請の要件
事業を開始するには、事業所所在地の市町村から「指定」を受ける必要があります。主な要件は以下の3点です。
1. 法人要件
株式会社、合同会社、NPO法人、社会福祉法人、一般社団法人などの「法人格」を有していることが必須です。定款の事業目的に「障害児相談支援事業」及び「特定相談支援事業」(併設する場合)の記載が必要です。登記簿謄本に記載がない場合は、変更登記手続きが必要となります。
2. 人員基準
最もハードルが高いのが人員の確保です。
- 管理者(1名): 常勤・非常勤を問いません。管理業務に支障がなければ、相談支援専門員との兼務が可能です。
- 相談支援専門員(1名以上): 以下の要件を満たす者を配置する必要があります。
- 実務経験要件:相談支援業務や直接支援業務(介護・保育等)において、所定の年数(通常3年〜10年、資格の有無による)の経験があること。
- 研修修了要件:都道府県が実施する「相談支援従事者初任者研修」を修了していること。
※注意点: 相談支援専門員は、管理者と兼務することで「1名の採用」で要件を満たすことが可能です。多くの小規模事業所では「管理者兼相談支援専門員」1名体制でスタートします。
3. 設備基準
ハード面の要件は比較的緩やかですが、プライバシー保護が重視されます。
- 事務室: 職員が業務を行うスペース。机、椅子、書庫(鍵付き必須)、PC等を設置。他の事業と併設する場合、パーテーション等で区分けが必要です。
- 相談室: 利用者(保護者)からの相談を受けるスペース。個室が望ましいですが、パーテーション(高さ180cm以上等、自治体による)で区画され、プライバシーが守られる構造であること。
- その他: 手洗い場、衛生設備など。
新規開設の手順(詳細)
開設までの標準的な期間は、物件選定や採用を含めると約3〜6ヶ月です。特に市町村との事前協議は重要です。
- 事前準備フェーズ
- 市場調査・事業計画作成
- 物件の確保(契約前に自治体に要件確認を推奨)
- 人材の確保(相談支援専門員の研修修了証の確認)
- 法人設立・定款変更
- 事前協議・相談(開設2〜3ヶ月前)
- 市町村の障害福祉課窓口にて、図面や経歴書を持参し事前相談を行います。
- 多くの自治体では予約制です。この段階で設備や人員の不備を指摘してもらい、修正します。
- 指定申請書類の作成・提出(開設1〜1.5ヶ月前)
- 指定日は原則として「毎月1日」です。
- 提出期限は自治体により異なります(前々月末、前月10日など)。期限厳守です。
- 審査・現地確認
- 書類審査に加え、実際に事業所を訪問し、設備要件を満たしているか確認が行われる場合があります。
- 指定通知書の交付・開設
- 指定通知書が交付され、晴れて事業開始となります。
- 開設後、速やかに国保連(国民健康保険団体連合会)への請求届出を行います。
既存事業者の追加指定手続き
既に「特定相談支援事業(成人向け)」を行っている事業所が、新たに「障害児相談支援」を追加する場合、手続きは比較的簡素化されます。
多くの自治体では、特定相談支援と障害児相談支援の指定要件(人員・設備)が重複しているため、「変更届」ではなく「新規指定申請」の形をとりますが、添付書類の一部省略が認められるケースがあります。
ただし、指定権者が異なる場合(例:特定相談支援の指定権者はA市だが、近隣のB市の児童も受け入れたい場合など)は、それぞれの自治体に申請が必要です。障害児相談支援は「利用者の居住地の市町村」が指定権者となる原則がありますが、事業所所在地の市町村指定を受けていれば、他市町村の利用者を受け入れる際に「みなし指定」等の手続きで対応できる場合と、個別に指定申請が必要な場合があります。この点は地域ルール(広域指定など)が強いため、必ず窓口確認が必要です。
申請に必要な書類一覧
一般的な必要書類は以下の通りです。自治体により様式が異なりますので、必ず最新の「指定申請の手引き」を参照してください。
- 指定申請書(第1号様式等)
- 付表(障害児相談支援事業所の指定に係る記載事項)
- 定款または寄附行為の写し(原本証明が必要な場合あり)
- 登記事項証明書(履歴事項全部証明書)
- 勤務形態一覧表(管理者・従事者のシフト表)
- 管理者の経歴書
- 相談支援専門員の経歴書・実務経験証明書・研修修了証の写し
- 組織体制図
- 平面図(寸法・用途・面積を記載)
- 事業所の写真(外観・内観・設備)
- 運営規程(事業の目的、営業時間、利用料等を定めたもの)
- 苦情を解決するために講ずる措置の概要
- 資産の状況を明らかにする書類(決算書、資産目録等)
- 関係法令遵守の誓約書
- 介護給付費等算定に係る体制等に関する届出書(加算届)
報酬・加算の詳細
障害児相談支援の報酬は、相談支援専門員の業務量に応じた体系になっています。
基本報酬(単位数は地域区分により1単位の単価が異なる)
- 障害児支援利用援助費(初回作成時など):
計画案を作成し、支給決定後に本計画を作成した月に算定。報酬単価は比較的高めに設定されています。 - 継続障害児支援利用援助費(モニタリング時):
定められたモニタリング期間(毎月、3ヶ月ごと等)に面談・会議を行い、報告書を提出した月に算定。
主な加算(令和8年改正反映見込みを含む)
- 機能強化加算:
常勤専従の相談支援専門員を配置し、24時間連絡体制や災害時支援体制などを整備している場合。 - 主任相談支援専門員配置加算:
研修を受けた主任相談支援専門員を配置している場合。 - 行動障害支援体制加算 / 要医療児者支援体制加算:
専門的な研修を受けた職員を配置し、対応可能な体制をとっている場合。 - 【新設】処遇改善加算(予定):
令和8年6月より、職員の賃金改善計画を作成・実施し、キャリアパス要件等を満たした場合に、報酬総額に対して一定率が上乗せされる見込みです。
運営上の留意事項
指定取得はゴールではなくスタートです。実地指導(監査)で指摘されやすいポイントを挙げます。
- モニタリングの確実な実施:
計画作成時に定めた頻度(例:毎月)で必ず面談を行い、記録を残すこと。電話だけの確認で済ませて報酬請求すると返還対象になります。原則は「対面」です。 - アセスメント記録の保管:
計画書だけでなく、その根拠となったアセスメントシート、モニタリング報告書、担当者会議の議事録は完備し、5年間保存する必要があります。 - 関係機関との連携記録:
学校、放課後等デイサービス、医療機関等と連携した内容は、日時・相手方・内容を記録に残してください。 - 個人情報保護:
同意書の取得漏れがないように徹底してください。
よくある質問(Q&A)
Q1. 相談支援専門員は1人で何件まで担当できますか?
A1. 「標準担当件数」として概ね35件〜40件程度が目安とされていますが、報酬上の上限(基本報酬が減算されるライン)が設定されています。件数が増えすぎるとモニタリングの質が低下するため、機能強化加算等の算定要件と合わせて人員体制を検討する必要があります。
Q2. 自社で放課後等デイサービスを運営しています。自社の利用者を全員、自社の相談支援事業所で計画作成しても良いですか?
A2. 制度上は可能ですが、「囲い込み」とみなされないよう注意が必要です。利用者の利益のために、中立公平な立場で他社のサービスも含めて提案することが求められます。特定事業所集中減算(特定の事業所に偏って紹介した場合の減額措置)の対象となる可能性がありますので、正当な理由の記録や、他事業所の紹介実績も重要です。
Q3. 令和8年の処遇改善加算は、管理者も対象ですか?
A3. 従来の福祉・介護職員処遇改善加算のルールに準拠する場合、原則として「直接支援を行う職員」が対象ですが、管理者が相談支援専門員を兼務している場合は対象となり得ます。詳細は厚生労働省から発出されるQ&Aや通知を待つ必要があります。
まとめと今後の展望
障害児相談支援事業は、単なる書類作成代行業務ではなく、障がいのある子どもとその家族の人生に伴走する極めて重要な役割を担っています。
令和8年6月の制度改正は、これまで「採算性が低い」とされてきたこの事業に対し、処遇改善加算という強力なバックアップが入る転換期です。これにより、優秀な相談支援専門員の確保がしやすくなり、事業所としての経営基盤も安定化させることが可能になります。
また、相談支援事業所を持つことは、地域のニーズをいち早く把握し、自社の通所支援サービスの質を高めることにも直結します。


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