建設業界では現在、技能者の処遇改善や担い手の確保に向けて、国主導の大きな制度改革が進められています。その中で注目されているキーワードの一つが「自主宣言」です。
従来の制度は、国がルールを定め、それを守るかどうかが評価の中心でした。しかし今後は、企業自らが「どのように技能者を大切にするのか」を宣言し、その内容や取組状況が評価される仕組みへと大きく転換しようとしています。
その代表的な制度が「建設技能者を大切にする企業の自主宣言(職人いきいき宣言)」です。この制度は単なる理念ではなく、経営事項審査(経審)での評価や、建設キャリアアップシステム(CCUS)の運用とも密接に関係しており、今後の企業評価に直結する重要な要素となっています。
本記事では、「自主宣言」という視点から、職人いきいき宣言の制度内容や背景、評価の仕組み、そして企業に求められる具体的な対応について、実務に落とし込んで詳しく解説していきます。
処遇改善に向けた取組
まず、「担い手3法」といわれる建設業法などを含めた3つの法律を改正して、
下請け業者が自社の技能者に適正な賃金を払えるような仕組みを作りました。
技能者の賃金を上げるには、理屈としてはこうです。
【ゴール】下請会社が自社の技能者に適正な賃金を支払う
↓
【目的地1】そのためには賃金の原資が必要
1次下請から適正な労務費を支払ってもらう
(価格転嫁を労務費で吸収しない)
↓
【目的地2】そのためには元請から適正な労務費を支払ってもらう
(価格転嫁を労務費で吸収しない)
↓
【スタート】そのためには発注者から適正な労務費を支払ってもらう
(価格転嫁を労務費で吸収しない)
★じゃあ「適正な労務費」っていくらなの?
★どうやって下流まで労務費を減らすことなく行き渡らせるの?
★そもそもそんなこと、1事業者の力だけでできないでしょ?
↓
商慣習の変更も含めて、これを国が主導して根底から解決しようとするのが今回の改革です
簡単に図示するとこうなります

その一環として、労務費に関する基準を軸とした適正賃金支払いの実現です。
労務費に関する基準を軸とした適正賃金支払いの実現
末端の技能者まで適正な賃金が行き渡るためには、上流から変える必要があります。
では上流から順に「なに」を「どう」改善していけばよいのかを、国交省は次のように考えているようです。
「労務費に関する基準」により、公共工事・民間工事を問わず、下請取引を含めて
適正な労務費(賃金の原資)を確保するとともに、「CCUSレベル別年収」による、個々の技能者の経験・技能に応じた適正な賃金の支払いを目指す。
つまり、
🔵「労務費に関する基準」を国が設定することで賃金の原資を確保させ
🔵「CCUSレベル別年収」を国が設定することで経験や能力に応じた適正な賃金の支払いを実現
させようという狙いでいま建設業界が大きく動いています。
この流れを実現するために、じゃあ具体的にどんなテコ入れをするのかというのが本題です。

出典:国交省2026
4つの具体策をザックリと説明します。
①見積書に労務費を明示しましょう!
まず国や関係団体が「見積書のひな形」を出します。
下請は職種ごとに出されるそれらの「労務費を明示した見積もり」を参考にしながら、個別の現場ごとに適正な労務費を設定して出しましょう。
発注者や元請も、それが当たり前となるよう、これまでの商慣習を変えて「新たな商慣習」としましょう、ということです。
これを国や専門の団体がイニシアティブをとってやっていくから、資材高騰などを労務費で吸収させることなく、まずは「建設業として必要な労務費」を元請下請で明示することを当たり前にしましょうということです。
②技能者を大切にする企業を取引において優遇しましょう!
せっかくの制度改革も、実施する側にとってメリットが無ければ事項されませんし、うま味がなければ広がっていきません。
そこで国は、「技能者を大切にした処遇を行っている企業には、率先して仕事を回すようにしたり、業務上の優遇を与えましょう」というのが2つ目の取り組んです。
そのためには、まずはそういった処遇改善などの取組をしている企業を「見える化」しますね、ということです。国交省のHPなどに掲載し、優先選択できるようにしているようです。
③上流の注文者が下流で労務費が減らされていないかを確認するようにしましょう!
「コミットメント」というのは、某ジムの「結果にコミットします!」でお馴染みの言葉ですが、要するに、
🔵下請が「私の会社では技能者のために適正な労務費の明示と、適正な賃金の支払いを実行します!」と注文者に請負契約上で「約束」をします。
🔵それを受けて注文者は、受注者がその約束通りに実行しているか書類を提出させて確認する仕組みを導入する。
これがコミットメント制度です。
元請が下請に適正な労務費の支払いをし、下請が自社の技能者に適正な賃金の支払いをするという、まさに「結果にコミット」するんです!
④都道府県ごとにCCUSレベル別年収を設定し、標準額を下回っていたら重点確認の対象にする!
建設業界の課題の1つは、経験や能力が適切に賃金に反映されにくいということでしょう。
そこを改善するのがCCUSレベル別年収でしたよね。令和8年3月に最新版の改訂が出されておりますが、ポイントは1つだけ。
都道府県ごとに設定されたレベル別年収のうち、「標準額」を下回るような賃金の支払いに対しては、不当な労務費のダンピングの恐れがあるとして、行政による「重点確認」の対象にすると明言していることです。
ただし、あくまでもこの標準値は法的な拘束力をもつものではなく、その金額での支払いを義務としているわけではない、と添えられています。
これは行政側の逃げ道だなと個人的に感じます。
これらを踏まえて、国交省の用意したポータルサイトにアクセスすると、職種別に労務費に関する基準を踏まえた「基準値」を算出することが出来ます。下請はこの基準値をもとに見積もりで数字を明示することになります。
今回の記事では、この4つの取組の②である「自主宣言」について詳しく説明いたします。
建設技能者を大切にする企業の自主宣言(「職人いきいき宣言」)
自主宣言の制度概要は以下の通りです。

制度の意図するところとしては、
🔵技能者を大切にする取り組みを行っている企業は、取引上の優遇措置を行い、取組を行っていない企業よりも優先して仕事を回すようにしましょう。
🔵そのためにも、取組を行っている企業を「見える化」して優先選定しやすくしましょう。
🔵さらに、インセンティブとして経審でも項目を新設して加点できるようにしましょう。
ということです。
ただし、自主宣言はただ言いっぱなしでよいわけはなく、実際に技能者を大切にする取り組みを行うことが本質です。
厚労省に申請を行い、要件をクリアしていれば厚労省のHPに企業名が掲載される仕組みとなります。
「建設技能者を大切にする企業の自主宣言制度」とは
技能者を大切にし、処遇改善に積極的に取り組もうとする事業者がその旨を内外に宣言することにより、技能者・エンドユーザーに至るまでのサプライチェーンの中で当該事業者が適切に評価され、ひいては受注機会が確保されることや、就業者に選ばれる事などにより処遇改善の取組が持続的に行われることとなる枠組みを作ることを目的とした制度です。
自主宣言では以下の宣言内容を一例として想定しているようです。
- 【共通】宣言企業との取引優先、CCUSの利用環境整備、会社独自の取組
- 【元請・発注者(一人親方含め)】適切な工期・労務費等での取引
- 【下請】技能レベルに応じた手当や賃金支払、月給制、週休2日制
「自主宣言のメリット」
宣言企業は、シンボルマークを使用可能とし、宣言内容を国交省のサイトで公表
令和8年7月1日以降の経営事項審査の申請において加点予定

上記のURLにアクセスすると、以下の画面のサイトに飛びます。
このサイトが自主宣言のページなので、申請等もこのページを見て行いましょう。

申請の要件と流れ
申請を行う前に、まずは以下の事項を確認してください。

申請URL:https://jishusengen.mlit.go.jp/applyf_sd.html
公表サイトURL:https://jishusengen.mlit.go.jp/search.html




ここまでの前提事項を「会社として」了承できるのであれば、いざ申請手続きに入りましょう。
全てこのサイトページから入力して申請することになります。
申請用ページ

宣言をした企業を検索することもできます。
この記事を書いている時にも、ぞくぞくと宣言企業数が増えているのがわかります。



