「特定財産承継遺言」と「相続分の指定」の違い|実際の遺言書作成で迷わない書き分け方

「特定財産承継遺言」と「相続分の指定」の違いについて解説する記事のアイキャッチ画像 相続・遺言

遺言書を作成する際に、

・「特定財産承継遺言(旧:相続させる旨の遺言)」
・「相続分の指定」

という2つの考え方があることを知り、「何が違うのか分からない」と感じたことはありませんか?

どちらも相続人に財産を承継させるための手法ですが、
👉 法的な効果や実務上の扱いはまったく異なります。

例えば、

・不動産を遺産分割協議なしで相続させたい
・預貯金をスムーズに払い戻したい
・相続人間のトラブルを防ぎたい

といった場合には、「どちらを使うか」で結果が大きく変わります。

実務では、

・書き方を間違えて手続きが止まる
・意図しない割合で相続される
・結局、遺産分割協議が必要になる

といったトラブルも少なくありません。

本記事では、

・特定財産承継遺言とは何か(民法1014条2項)
・相続分の指定とは何か(民法902条)
・両者の決定的な違い
・実務上の使い分けと併用方法
・よくある誤解と注意点

について、初学者でも理解できるように整理しながら、実務レベルで詳しく解説していきます。

「遺言書を書くならどちらを使うべきか」
この判断ができるようになることを目的とした、実務重視の解説です。

遺言書の作成において最も重要なポイントの一つが、「どのような方法で財産を承継させるか」という点です。その中でも実務上非常に多く利用されているのが「特定財産承継遺言」です。

特定財産承継遺言とは、特定の相続人に対して、特定の財産を直接承継させる旨を定める遺言のことをいいます。従来は「相続させる旨の遺言」と呼ばれていましたが、現在は民法上の整理として「特定財産承継遺言」として位置付けられています。

この遺言の最大の特徴は、遺言者が死亡した時点で、その財産が直ちに指定された相続人に帰属する点にあります。すなわち、遺産分割協議を経ることなく、法律上当然に権利が移転するという強い効力を持っています。

例えば、「自宅不動産は長男に相続させる」という内容の遺言があった場合、被相続人の死亡と同時に、その不動産は長男に帰属することになります。この場合、他の相続人との間で「この不動産を誰が取得するか」という話し合いを行う必要はありません。

この点は実務上極めて重要です。なぜなら、遺産分割協議は相続人全員の合意が必要であり、一人でも反対すれば成立しないため、相続手続きが長期化する原因となるからです。しかし、特定財産承継遺言があれば、そのような協議を省略し、スムーズに手続きを進めることが可能になります。

また、不動産の名義変更(相続登記)についても、特定財産承継遺言がある場合には、受益相続人が単独で申請することができます。通常であれば相続人全員の協力が必要となる場面でも、遺言の効力によって単独手続きが認められるため、実務上の負担は大きく軽減されます。

さらに、預貯金の解約や払戻しにおいても、遺言執行者が指定されている場合には、金融機関との手続きが円滑に進むというメリットがあります。相続人全員の同意書を集める必要がなくなるため、迅速な資金移動が可能となります。

加えて、不動産の承継に関しては、税務上のメリットも存在します。特定財産承継遺言による取得は「遺贈」ではなく「相続」として扱われるため、登録免許税の税率が低く抑えられるケースが一般的です。この点も、実務において積極的に利用される理由の一つです。

もっとも、このように強い効力を持つ特定財産承継遺言には注意点も存在します。特に重要なのが、「受益相続人が遺言者より先に死亡した場合」の取り扱いです。この場合、原則としてその部分の遺言は効力を失うことになります。

例えば、「長男に自宅を相続させる」と定めていたにもかかわらず、その長男が遺言者より先に死亡していた場合、その遺言はそのままでは実現できません。その結果、その財産については遺産分割協議に委ねられることになり、遺言の目的が達成されない可能性があります。

このようなリスクを回避するためには、「予備的遺言」を併せて定めておくことが重要です。すなわち、「長男が先に死亡している場合には、その子に相続させる」といった代替的な承継先をあらかじめ指定しておくことで、遺言の実効性を確保することができます。

以上のように、特定財産承継遺言は、特定の財産を確実かつ迅速に特定の相続人へ承継させるための非常に有効な手段です。特に、不動産や事業用資産など、帰属先を明確にしておきたい財産がある場合には、実務上欠かすことのできない重要な制度であるといえます。

特定財産承継遺言と並んで、遺言書において重要な役割を持つのが「相続分の指定」です。この制度は、各相続人が相続する財産の割合をあらかじめ定めておくものであり、民法902条に根拠があります。

相続分の指定とは、簡単に言えば「誰がどれくらいの割合で財産を取得するか」を定めるものです。例えば、「長男に2分の1、次男に2分の1」や、「配偶者に3分の2、子に3分の1」といったように、割合によって相続の配分を決める方法です。

この制度は、法定相続分とは異なる割合で財産を分けたい場合に利用されます。通常、相続が発生した場合には民法で定められた法定相続分に従って遺産が分配されますが、遺言によってこれを変更することが可能です。相続分の指定は、そのための代表的な手段の一つです。

ただし、この制度の本質を理解するうえで重要なのは、「割合を決めるだけで、具体的な財産の帰属は決めていない」という点です。ここが特定財産承継遺言との決定的な違いの一つになります。

例えば、「長男に2分の1、次男に2分の1」と指定した場合であっても、それだけでは「どの財産を長男が取得するのか」「どの財産を次男が取得するのか」は決まりません。不動産を誰が取得するのか、預貯金をどう分けるのかといった具体的な配分は、別途決める必要があります。

そのため、相続分の指定がある場合でも、原則として遺産分割協議が必要になります。相続人全員で話し合いを行い、具体的な財産の分け方を決めるというプロセスを経なければ、最終的な権利関係は確定しません。

この点は実務上非常に重要です。相続分の指定があるからといって、すぐに名義変更や預貯金の払戻しができるわけではありません。あくまで「分け方の基準」が示されているに過ぎず、「実際の分割」は別の手続きによって確定させる必要があります。

さらに、相続分の指定にはもう一つ重要な特徴があります。それは、プラスの財産だけでなく、マイナスの財産、すなわち負債についても同じ割合で承継されるという点です。

例えば、「長男に2分の1、次男に2分の1」と指定した場合、預貯金や不動産といった資産だけでなく、借金などの負債についても同じ割合で負担することになります。これは、相続が「包括承継」であることに由来するものであり、資産だけを選択的に取得することはできません。

ただし、ここで注意が必要なのは、債権者との関係です。相続人間では遺言による割合指定が有効に機能しますが、債権者(借金している相手)に対しては必ずしもその割合を主張できるわけではありません。実務上は、法定相続分に基づいて責任を追及される可能性があるため、この点については慎重な理解が必要です。

また、相続分の指定は一見するとシンプルで分かりやすい制度ですが、実際にはトラブルの原因となることも少なくありません。その理由は、「割合だけ決めて具体的な分け方を決めていない」という性質にあります。

例えば、不動産のように物理的に分割が難しい財産がある場合、どの相続人が取得するかを巡って対立が生じることがあります。割合は決まっていても、現実の分割方法について意見が一致しなければ、最終的には家庭裁判所の調停や審判に進む可能性もあります。

このように、相続分の指定は柔軟な分配を可能にする一方で、具体的な分割方法を相続人に委ねるという側面を持っています。そのため、相続人間の関係が良好であり、話し合いによって円滑に分割できる見込みがある場合には有効な手段となりますが、対立が予想される場合には慎重な検討が必要です。

以上のように、相続分の指定は、全体のバランスを考慮した柔軟な相続設計を可能にする制度である一方で、具体的な分割手続きが別途必要になるという特徴を持っています。この性質を正しく理解しておくことが、遺言作成において非常に重要となります。

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