
外国人を雇用しようとしたとき、「数次査証(すうじさしょう)」という言葉を見かけて、「これは就労ビザの種類なのか?」「これがあれば何度も働けるのか?」と疑問に感じたことはありませんか?
結論から言うと、「数次査証」は就労の可否とは直接関係のない概念であり、誤解したまま判断すると、採用や入国の場面で大きなミスにつながる可能性があります。
特に、「ビザ(査証)」と「在留資格」を混同していると、この数次査証の意味を正しく理解することはできません。そしてこの誤解は、外国人雇用において非常に多く見られます。
本記事では、「数次査証とは何か」という基本から、シングルビザとの違い、在留資格との関係、そして企業側が注意すべきポイントまで、実務で使えるレベルでわかりやすく解説していきます。
数次査証とは何か?まずは正確な意味を理解する
外国人雇用の場面で登場する「数次査証(すうじさしょう)」とは、簡単に言うと一定期間内であれば何度でも日本に出入国できるビザ(査証)のことを指します。英語では「マルチプルビザ(Multiple Visa)」とも呼ばれます。
一般的にビザには、「一次査証(シングルビザ)」と「数次査証(マルチプルビザ)」の2種類があります。一次査証は、一度日本に入国するとその役割を終え、再度入国するためには改めてビザを取得する必要があります。一方、数次査証は、有効期間内であれば、何度でも日本に出入りできる点が大きな特徴です。
この有効期間は通常1年・3年・5年などで設定されており、近年では条件によっては最長10年のものも存在します。また、1回あたりの滞在期間は、15日・30日・90日などと制限されており、「長期間住み続けるためのものではない」という点も重要です。
ここまでの説明だけを見ると、「何度も来日できる便利なビザ」という印象を持つかもしれませんが、外国人雇用の文脈では、この理解だけでは不十分です。むしろ、この数次査証を誤解していることが原因で、違法就労に発展するケースもあるため、次のポイントが非常に重要になります。
最重要ポイント:「数次査証=働ける」ではない
外国人雇用において最も注意すべき点は、数次査証そのものには就労許可の機能がないということです。
ここは非常に誤解が多い部分ですが、数次査証はあくまで「入国の利便性を高めるための仕組み」であり、「日本で何をしてよいか」を決めるものではありません。つまり、数次査証を持っているからといって、日本で自由に働けるわけではないのです。
特に多いのが、「短期滞在」の数次査証です。この場合の入国目的は、観光、商談、会議、親族訪問などに限定されており、日本国内で報酬を得る活動(いわゆる就労)は原則として禁止されています。
例えば、海外の取引先の社員が数次査証で来日し、そのまま日本の会社でアルバイトのような形で働いてしまうと、それは明確に違法就労となります。たとえ短期間であっても、「報酬を得る労働」に該当すればアウトです。
したがって、日本でフルタイムで働かせたい場合には、数次査証ではなく、「技術・人文知識・国際業務」や「特定技能」といった就労可能な在留資格(いわゆる就労ビザ)を取得する必要があります。
ここを誤解してしまうと、企業側が知らないうちに「不法就労助長罪」に該当するリスクがあるため、極めて重要なポイントです。
数次査証が活用される「正しい雇用シーン」とは
では、数次査証は外国人雇用の場面では全く使えないのかというと、そうではありません。むしろ、特定の場面では非常に有効に活用されます。
代表的なのが、「短期的かつ頻繁な来日」が必要なケースです。
例えば、海外にある支店の社員を、日本本社での会議や打ち合わせ、技術指導、アフターサービスのために何度も呼ぶ場合です。このようなケースでは、毎回ビザ申請を行うのは非効率であり、数次査証を利用することで大幅に手続きの負担を軽減できます。
また、採用活動の場面でも活用されることがあります。例えば、海外在住の候補者を最終面接や実技試験のために日本へ呼ぶ場合、数次査証を持っていればスムーズに来日させることが可能になります。
ただし、これらはいずれも「短期滞在の範囲内での活動」であり、「雇用して働かせる」こととは明確に区別する必要があります。
数次査証の具体的な仕組みと特徴
数次査証を理解するためには、その具体的な仕組みも押さえておく必要があります。
まず、有効期間についてですが、一般的には1年・3年・5年といった区分があり、条件によってはさらに長期間のものもあります。ただし、この期間は「滞在できる期間」ではなく、「入国を繰り返すことができる期間」である点に注意が必要です。
次に、1回あたりの滞在期間ですが、これは15日・30日・90日などと制限されています。この期間を超えて滞在することはできず、長期滞在を希望する場合は別途在留資格が必要になります。
対象者については、頻繁に日本を訪れるビジネスパーソンや文化人、一定の条件を満たす富裕層などが中心であり、国籍や過去の渡航歴などによって発給条件が異なります。
つまり、数次査証は「便利ではあるが、用途が明確に限定されたビザ」であり、万能ではないという理解が重要です。
外国人を正規雇用する場合の正しい流れ
ここまでを踏まえると、外国人を「継続的に雇用したい」という場合には、数次査証では対応できないことが明確になります。
正しい手続きとしては、まず日本の出入国在留管理局に対して「在留資格認定証明書(COE)」の交付申請を行う必要があります。これは、「この外国人が日本でこの仕事をすることは適法である」という事前審査のようなものです。
このCOEが交付された後、本人が海外の日本大使館・領事館でビザ申請を行い、発給されたビザで来日するという流れになります。
つまり、数次査証はこのプロセスとは別物であり、「長期就労の入口」にはならないという点をしっかり理解しておく必要があります。
まとめ:数次査証は「出入りの自由」、就労は「在留資格」で判断する
数次査証は、「何度も日本に来られる便利なビザ」ではありますが、それはあくまで「出入国の回数」に関する話であり、「働けるかどうか」とは全く別の問題です。
外国人雇用においては、必ず「その人がどの在留資格を持っているか」「その在留資格で何ができるか」を基準に判断しなければなりません。
この区別ができていないと、「ビザはあるから大丈夫」という誤った判断をしてしまい、結果として違法就労につながるリスクがあります。
数次査証は便利な制度ではありますが、用途を誤ると大きなリスクにもなります。だからこそ、「入国のためのビザ」と「就労のための在留資格」をしっかり分けて理解することが、外国人雇用においては不可欠です。


