相続が発生した後に、「一部の相続人が生前から被相続人の預金を引き出して使っていた」と判明するケースは少なくありません。
このような場合、「その人の取り分を減らすことはできるのか?」「使い込まれた分は取り戻せるのか?」と疑問に思う方も多いでしょう。
結論としては、単純に相続割合を変更することはできないものの、「特別受益」や「不当利得返還請求」といった法的手段を使うことで、実質的に不公平を是正することは可能です。
この記事では、相続人による預金の使い込みがあった場合の法的な考え方と、具体的な対処方法について詳しく解説します。
相続人による預金の使い込みは「調整・返還」の対象になる
相続人の一人が、被相続人の預金を生前に無断で引き出していた場合、
その分を考慮せずに遺産分割を行うと、不公平な結果になります。
このようなケースでは、
・相続分そのもの(法定相続分)を直接減らすことはできない
・しかし、実質的には「取り分を減らす」ことは可能
というのが法律上の整理です。
具体的には、
・遺産分割協議で調整する
・特別受益として扱う
・返還請求(訴訟)を行う
といった方法によって、公平性を確保していきます。
最も現実的な方法は「遺産分割協議での調整」
使い込み分を遺産に戻して計算する
実務上、最も多く採用されるのが、遺産分割協議の中で解決する方法です。
具体的には、使い込まれた金額を
「本来は遺産に存在したはずの財産」として扱うことで、全体の分配を調整します。
調整の具体例
例えば、
・遺産総額:1,000万円
・兄が生前に300万円を使い込み
この場合、遺産を「1,300万円」とみなして計算し、
兄の取り分から300万円分を差し引く、という形で調整します。
メリットと注意点
メリット:
・裁判をせずに解決できる
・時間と費用を抑えられる
注意点:
・使い込んだ本人の同意が必要
・事実関係に争いがあると成立しない
そのため、話し合いで解決できるかどうかが大きな分岐点になります。
「特別受益」として扱う方法
生前贈与と評価できる場合
もし、使い込みが
・被相続人の了承のもとで行われていた
・生活費や援助として渡されていた
といった事情がある場合は、「特別受益」として扱うことができます。
特別受益の効果
特別受益に該当すると、その金額は
いったん遺産に持ち戻して計算(持戻し)され、
結果的にその相続人の取得分が減少します。
注意点
ただし、単なる無断引き出し(使い込み)は、通常は特別受益ではなく、
不当利得や不法行為の問題として扱われます。
したがって、
・被相続人の意思があったか
・贈与と評価できるか
が重要な判断ポイントになります。
話し合いで解決できない場合は「調停」へ
遺産分割調停の役割
相続人間で合意できない場合は、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てます。
調停では、
・銀行の取引履歴
・引き出しの状況
などをもとに、調停委員が事実関係を整理し、公平な分割を目指します。
調停のメリット
・第三者が入ることで冷静な話し合いができる
・証拠に基づいた判断が行われる
・合意できれば法的効力を持つ
感情的な対立がある場合には、有効な手段です。
使い込み分を返還させる法的手段
不当利得返還請求・損害賠償請求
遺産分割とは別に、使い込まれたお金そのものを取り戻す方法もあります。
無断での引き出しは、
・不当利得(民法703条)
・不法行為(民法709条)
に該当する可能性があり、訴訟によって返還を求めることができます。
請求できる範囲
他の相続人は、
自分の法定相続分に応じた金額について、返還請求を行うことが可能です。
遺産分割との関係
実務では、
・遺産分割で調整する
・別途訴訟で回収する
という2つのルートがあり、状況に応じて使い分ける必要があります。
証拠の収集がすべてを左右する
必須となる資料
使い込みを主張するためには、客観的な証拠が不可欠です。
具体的には、
・残高証明書
・取引履歴(数年分)
を金融機関から取得します。
不自然な取引のチェック
以下のような事情があれば、有力な証拠になります。
・認知症や入院中に多額の引き出しがある
・短期間で繰り返し高額出金がある
・利用場所が不自然(遠方のATMなど)
誰が引き出したかの特定
可能であれば、
・払戻請求書の筆跡
・ATM利用状況
などから、実際に引き出した人物を特定していきます。
時効にも注意が必要
不当利得返還請求には時効があります。
・権利行使が可能と知ったときから5年
・権利発生から10年
この期間を過ぎると請求できなくなるため、早期対応が重要です。
まとめ
相続人の一人が預金を使い込んでいた場合でも、
・自動的に相続分が減るわけではない
・しかし、遺産分割や法的手続きによって調整・回収は可能
というのが基本的な考え方です。
対応としては、
・遺産分割協議での調整
・特別受益としての処理
・調停や訴訟による返還請求
を状況に応じて選択していきます。
まずは、
「いつ・誰が・いくら使ったのか」という証拠を確保し、その上で話し合いまたは法的手続きに進むことが、適切な解決への第一歩となります。

