処遇改善加算の「実績報告書」は、毎年必ず提出しなければならない重要書類です。
しかし実際には、
・何から手を付ければいいのか分からない
・どの書類を準備すればよいのか不明確
・賃金台帳や配分資料をどう整理すればよいのか迷っている
・4月15日の提出期限に間に合うか不安
このようなお悩みを抱える事業主様が少なくないのではないでしょうか。
処遇改善加算は、受給した加算額を「必ず職員へ適正に配分していること」を証明する制度です。実績報告が不十分であれば、加算の返還を求められる可能性もあります。
本記事では、
✔ 4月15日の提出〆切に間に合わせるためのロードマップ
✔ 実際に提出する書類の正式名称
✔ その書類を作るために必要な情報・記録・データ
✔ 日常業務のどの資料を確認すればよいか
✔ どの役所に提出するのか
を、事業主様が後から一人で読み返しても理解できるよう、できるだけ具体的に解説します。
「とりあえず出す」実績報告ではなく、
“説明できる実績報告”を作るための実務ガイドとしてご活用ください。
処遇改善加算とは
処遇改善加算は、現場で働く福祉・介護職員の賃金を改善(賃上げ)するために、国から事業所に支給される報酬です。この加算は事業所の利益にするものではなく、「原則として全額を職員の賃金改善に充てること」が義務付けられています。
新制度への一本化について
ご存知の通り、令和6年(2024年)6月より、従来の「処遇改善加算」「特定処遇改善加算」「ベースアップ等支援加算」の3つの加算が一本化され、「福祉・介護職員等処遇改善加算(Ⅰ〜Ⅳ)」という新しい制度に移行しました。
令和7年度(2025年4月〜2026年3月)は、この新制度が年間を通じて適用された初めての年度となります。そのため、今回の実績報告(令和8年7月提出)は、旧制度と新制度が混在していた昨年とは異なり、新制度の様式一本で報告を行うことになります。様式がシンプルになった反面、要件の確認などは厳格に行う必要があります。
実績報告の重要性
処遇改善加算は「計画書」を提出して加算を受け取り、年度終了後に「実績報告書」を提出して精算するというサイクルで運用されています。もし実績報告書を提出しなかったり、報告内容に不備があり「加算額以上の賃金改善が行われていない」と判断された場合、以下のような重大なリスクがあります。
加算の全額返還
受け取った加算金をすべて自治体に返還しなければなりません。
1. 全額返還となる主なケース
- 実績報告書の期限内提出がなかった場合
- 計画書に基づいて加算を受け取りながら、期日までに実績報告書を提出しない場合は全額返還となります。
- 加算額を全て賃金改善に充てなかった場合(使い残し)
- 処遇改善加算は、受け取った額以上の賃金改善(月額増額またはボーナス)が必須です。支給額が加算総額を下回ると、余った分は返金対象です。
- 賃金改善の対象外への支給(不正・不適切)
- 直接支援業務に従事していない管理者や事務職など、対象外の職員へ加算を支給した事例。
- 加算取得のための賃金引き下げ
- 加算分で賃金を上げる一方、基本給を下げるなどして実質的な総額を引き下げた場合。
- キャリアパス要件等の不備
- 計画書に記載した賃金体系や研修計画が実際には実施されておらず、要件を満たしていないと実地指導で指摘された場合。
2. 事例に見る注意点
- 「とりあえず申請」の危険性: 実績報告で書類の不備や、支給金額が計画より少ないことが発覚し、指導により全額返還を求められるケースがあります。
- 支給時期のズレ: 計画年度内に支給が完了していない場合、要件を満たさず返還となる場合があります。
3. 返還を避けるための対策
- 計画的な運用: 計画・実績の数値を毎月確認し、加算額を確実に賃金改善に回す。
- 就業規則の確認: 賃金改善を行う場合、就業規則の改定が必要となる場合があるため、適切に手続きを行う。
特に、小規模事業所や管理体制が不十分な場合、不正の意図がなくても計算ミスやルール理解不足で返還となる可能性があるため、注意が必要です。
行政指導・監査
不正受給や不適切な運営として、実地指導や監査の対象となります。
特に近年、賃金改善の不備や、計画書・実績報告書の未提出、架空の賃金支給が厳しく監視されており、返還や指定取り消しなどの重い処分が下される可能性があります。
以下に、処遇改善加算に関する行政指導・監査の要点、主な不適正事例、返還の対象となるケースを整理します。
1. 処遇改善加算の監査ポイント(指導・監査時に見られる主な書類)
行政(自治体)は実地指導において、主に以下の書類を確認し、加算が適正に職員へ還元されているかチェックします。
- 賃金改善計画書・実績報告書: 計画に対する実績が一致しているか。
- 就業規則・給与規程: 処遇改善手当の根拠はあるか。
- 給与台帳・給与明細: 処遇改善分が明確に区別・支払われているか(手当の支給が確認できるか)。
- 労働条件通知書・雇用契約書: 職員ごとの契約内容。
- 管理者・事務職員のタイムカード: 勤務体制の把握。
2. 行政指導・監査で指摘される主な不適正事例
不正や不備として最も多いケースは、加算を全額職員に還元していない「ピンハネ」的な運用です。
- 加算額の未還元・流用: 加算額(合計)以上の賃金改善を行っていない。
- 対象外職員への支給: 処遇改善の対象とならない職種(主に事務職など)に配分している。
- 実績報告書の未提出・遅延: 期限までに報告書を提出しない(再三の勧告に従わない場合は、全額返還の対象となる)。
- 賃金の「引き下げ」: 加算分を支給する一方で、基本給を下げて実質的な賃金増額になっていない。
- 計画書と実績の乖離: 計画では特定の人に多く支払うとしていたが、実際はそうではなかった。
- 架空の給与計算: 実際には働いていない時間や職員に対して加算を支払ったように装う。
3. 指導・処分・返還の仕組み
不備の程度に応じて、行政は以下の段階的な指導・処分を行います。
- 口頭指導・助言: 軽微な算定漏れや報告書の記載ミス。
- 文書指導: 改善の必要があるものの、悪質ではないケース。
- 改善勧告: 指定基準等に違反しているケース。
- 行政処分(指定の効力停止・取り消し): 不正請求(虚偽の報告、架空請求など)が発覚した場合。
返還命令:
算定要件を満たしていない場合や、加算額を下回る賃金しか支払っていない場合、受領した加算金全額の返還を命じられることがあります。
4. 対策・注意点
- 記録の保管: 5年間の保存義務がある書類(給与台帳、計画書、報告書)は適切に管理してください。
- 実績報告の徹底: 年度ごとの最終加算の支払いがあった月の翌々月末までに「実績報告書」を提出してください。
- 余剰金の処理: 加算額が余った場合、速やかに一時金として追加支給するか、翌年度に繰り越して使用する(通常は返還を回避するために支給します)。
- 最新通知の確認: 令和6年度(2024年度)以降は「介護職員等処遇改善加算」への一本化などルールが変更されているため、厚生労働省や自治体の情報を必ず確認してください。
処遇改善加算は「職員の給与改善」が目的であり、事業所の運営費として使用することは禁止されています。疑わしい行為が発覚した場合、行政から厳しい監査が入るため、適切な運用と正確な報告が必須です。
次年度の加算停止
今後の加算算定ができなくなり、経営に大きな打撃を与えます。
「忙しくて忘れていた」では済まされない重要な手続きですので、本ガイドに沿って計画的に進めていきましょう。
全体ロードマップ(令和8年3月〜7月)
現在(3月)から、実績報告書の提出期限である7月末までのスケジュールを確認します。直近では「令和8年度の計画書提出(4月15日締切)」と「令和7年度の実績報告(7月31日締切)」という2つの大きな山場があります。これらを混同しないように進めることが大切です。
令和8年3月上旬〜中旬(現在)
【書類の棚卸し・確認作業】
まずは現状の整理から始めます。
・令和7年4月〜令和8年2月分の賃金台帳が揃っているか確認。
・国保連からの「処遇改善加算等総額のお知らせ」が毎月届いているか、ファイルを確認(12ヶ月分必要になります)。
・新年度(令和8年度)の加算区分に変更がないか検討。
令和8年3月下旬〜4月15日(火)
【重要:第1の締切】令和8年度 処遇改善計画書の作成・提出
来年度(令和8年4月〜)も加算を受け続けるための手続きです。
提出期限:令和8年4月15日(火)必着
(※通常は2月末ですが、令和8年度は特例により4月15日となっています)
作成書類:福祉・介護職員等処遇改善計画書(別紙様式2)
この時点で、昨年度(令和7年度)の賃金改善見込額を計算し、繰越額が発生しそうかどうかも確認しておくと、実績報告がスムーズです。
令和8年4月後半
【令和7年度実績の全体確認・準備】
計画書の提出が終わったら、すぐに実績報告の準備に入ります。
・3月分の給与計算(4月支払い等)が確定次第、年間(令和7年4月〜令和8年3月)の賃金総額を集計し始めます。
・加算受給額の合計と、賃金改善額の合計を比較し、不足がないか概算チェックを行います。
令和8年5月
【最終支払確認・実績報告書作成開始】
3月サービス提供分の加算は、通常5月に国保連から支払われます。
・5月中旬頃に届く国保連の通知で、令和7年度の加算総額が確定します。
・この通知をもって、正確な「加算受給総額」が判明します。
・実績報告書(別紙様式3-2)への転記作業を開始します。
令和8年6月
【実績報告書の仕上げ・内容チェック】
期限直前は混み合うため、6月中の完成を目指します。
・「賃金改善額 > 加算受給総額」となっているか最終確認。
・万が一不足している場合は、一時金などで追加支給の対応が必要か検討。
(※原則は年度内支給ですが、やむを得ない場合の処理を確認)
・添付書類(職員ごとの積算根拠資料など、自治体により求められるもの)を整理。
令和8年7月〜7月31日(木)
【重要:第2の締切】令和7年度 実績報告書の提出
作成した報告書を提出します。
提出期限:令和8年7月31日(木)必着
・電子申請、郵送、窓口持参など、指定権者の指定する方法で提出。
・提出後は、控えと根拠資料を必ずファイリングして保存(5年間)。
提出が必要な書類一覧と提出先
直近で提出が必要な書類を整理しました。提出先は原則として事業所の指定権者(都道府県知事または市町村長)です。多くの場合、都道府県は市町村に権限を委任しているので、管轄の市町村にご確認下さい。
① 福祉・介護職員等処遇改善計画書(別紙様式2)
提出期限:令和8年4月15日(火)
来年度(令和8年度)も加算を取得するための計画書。見込額やキャリアパス要件などを記載します。
※これを出し忘れると、4月以降の加算が算定できません。
提出先:指定権者(障害福祉担当課)
※郵送または電子申請システム
② 障害福祉サービス等処遇改善実績報告書(別紙様式3-2)
提出期限:令和8年7月31日(木)
今年度(令和7年度)に受け取った加算を、適切に賃金改善に充てたことを報告する書類。
※今回のガイドのメインとなる書類です。
提出先:指定権者(同上)
③ 介護給付費等の算定に係る体制等状況一覧表(加算届)
提出期限:令和8年4月15日(火)
来年度から加算の区分を変更する場合(例:区分Ⅱから区分Ⅰへ変更など)や、新規に算定する場合に必要。
※変更がない場合は提出不要の自治体が多いですが、要確認。
提出先:指定権者(同上)
提出先の確認方法
「指定権者」とは、事業所の指定(認可)を下ろした自治体のことです。
・政令指定都市・中核市にある事業所 → 市の障害福祉課
・それ以外の地域にある事業所 → 都道府県の障害福祉課(または管轄の保健福祉事務所)
※複数の自治体に事業所がある場合は、それぞれの指定権者に提出が必要です。必ず自治体のホームページで「令和8年度 処遇改善加算」のページを検索し、提出先と方法を確認してください。
実績報告書(別紙様式3-2)の記載内容の詳細説明
7月末までに提出する「実績報告書(別紙様式3-2)」には、主に以下の情報を記載します。様式はExcelファイルで各自治体や厚労省のサイトからダウンロードできます。計算式が入っているため、手書きではなくPCでの入力をお勧めします。
(1) 事業所基本情報
法人名、事業所名、事業所番号、サービス種別などを記載します。
複数の事業所をまとめて報告する場合(一括届出)は、法人単位での集計値と、事業所ごとの内訳シートを作成します。
(2) 算定した加算の区分
令和7年度(2025年4月〜2026年3月)に算定した加算区分(福祉・介護職員等処遇改善加算Ⅰ〜Ⅳ、または旧Vなど)を選択します。
年度途中で区分変更があった場合は、その履歴も正確に反映させます。
(3) 加算による収入総額
ここが間違いやすいポイントです。
国保連から支払われた金額を正確に記載します。
「請求した額」ではなく「支払われた額(入金ベース)」で考えるのが一般的ですが、
処遇改善加算においては「サービス提供月」ベースで集計します。
つまり、
「令和7年4月サービス提供分(6月入金)」〜「令和8年3月サービス提供分(5月入金)」
の12ヶ月分を集計します。
(4) 賃金改善実施内容
加算を原資として、職員にどのように支給したかを記載します。
● 基本給(月給)による改善額
ベースアップ(ベア)などで基本給を上げた分。
● 手当による改善額
「処遇改善手当」「特定処遇改善手当」など、毎月決まって支払う手当分。
● 一時金(賞与)による改善額
夏冬のボーナスや、年度末に調整のために支払った一時金分。
(5) 賃金改善所要額の合計
上記の(4)に、法定福利費(事業主負担分の社会保険料など)の増加分を加えた合計額です。
この金額が、(3)の加算収入総額を上回っている必要があります。
【鉄則】
賃金改善所要額 ≧ 加算による収入総額
(6) 加算区分ごとの要件確認欄
「月額賃金改善要件」(新加算Ⅰ〜Ⅳで求められるベア配分要件)や、「キャリアパス要件」(職位・職責に応じた任用要件など)を満たしているかチェックを入れる欄です。
計画書提出時に誓約した内容が実施できているか確認します。
実績報告書作成に必要な情報と日常業務での確認事項
実績報告書をスムーズに作成するためには、日頃からの書類整理が鍵となります。
必要な8つの情報・書類について、具体的な使用目的と管理方法を解説します。
① 国保連からの「総額のお知らせ」
(福祉・介護職員等処遇改善加算等 総額のお知らせ)
● 何に使うか(目的)
実績報告書の「加算による収入総額」の正確な数値を把握するために必須です。
通帳の入金額だけでは、他の給付費と混ざっているため判別できません。
● 日常業務での管理と注意点
【管理】
毎月、国保連から伝送(または郵送)される通知を必ずダウンロード・印刷し、専用ファイルに綴じてください。
【注意】
令和7年4月分〜令和8年3月分の12ヶ月分が必要です。紛失すると再発行に時間がかかります。
利用者負担分(1割)が含まれているかどうかも確認が必要です(通常、通知書の額は総額記載です)。
② 賃金台帳(令和7年4月〜令和8年5月支払分)
● 何に使うか
職員ごとの基本給、手当、賞与の支給実績を集計するための最も重要な根拠資料です。
実績報告書の「賃金改善額」の証明になります。
● 管理と注意点
【管理】
給与計算ソフトから毎月PDFまたはExcelで出力し保存します。
【注意】
「処遇改善手当」などの項目が明確に区分されているか確認してください。基本給に組み込んでいる場合は、実施前の賃金台帳と比較できるよう準備が必要です。3月分給与が4月や5月払いになるため、支払月ベースで翌年度分まで必要になることがあります。
③ 労働者名簿
● 何に使うか
加算の対象となる職員を特定し、常勤・非常勤の区分や、入退職の時期を正確に把握するために使います。
● 管理と注意点
【管理】
採用や退職があるたびに更新してください。
【注意】
年度の途中で採用・退職した職員について、在籍期間のみを計算対象とする処理漏れが多発します。雇用年月日と退職年月日を正確に記録しましょう。
④ 給与支給明細(職員控え)
● 何に使うか
実際に職員の手元に支給されたことを証明する資料です。監査などで求められる場合があります。
● 管理と注意点
【管理】
事業所控えを月別に整理しておきます。
【注意】
明細書の項目名(「処遇改善手当」など)と、賃金台帳、就業規則の項目名が一致していることを確認してください。
⑤ 就業規則・賃金規程
● 何に使うか
支払った手当や一時金が、「会社のルールに基づいて支払われたもの」であることを証明する根拠です。
● 管理と注意点
【管理】
最新版を整備し、労基署へ届け出ているか確認します。
【注意】
「処遇改善手当を支給する」「業績により一時金を支給することがある」といった規定がないのに勝手に支給しても、処遇改善の実績として認められない場合があります。必ず規定を整備してください。
⑥ 勤務形態一覧表(シフト表・実績)
● 何に使うか
常勤換算数の計算や、加算対象となる職種の判定に使います。
● 管理と注意点
【管理】
毎月のシフト表(予定)だけでなく、修正後の「実績」を必ず保管してください。
【注意】
兼務職員(管理者とサビ管の兼務など)がいる場合、勤務時間の実績按分が必要になります。
実績報告でよくある間違いと注意点
処遇改善加算の実績報告は、「出せばよい」というものではありません。
監査や返還リスクに直結する重要書類です。
ここでは、実際に非常に多いミスを具体的に解説します。
① 加算収入の集計ミス
❌ よくある間違い
・通帳の入金額をそのまま集計
・入金月ベースで集計
・12ヶ月揃っていない
✅ 正しい考え方
サービス提供月ベースで12ヶ月分を集計
例:
令和7年4月提供分(6月入金)〜令和8年3月提供分(5月入金)
国保連の「総額のお知らせ」を必ず基準にしてください。
② 賃金改善額が不足している
❌ よくある間違い
・賞与を予定より減額
・職員退職により支給総額が下がった
・社会保険料分を計算に入れていない
✅ 原則
賃金改善所要額 ≧ 加算収入総額
不足した場合は返還対象になる可能性があります。
③ ベースアップ要件を満たしていない
新加算Ⅰ〜Ⅳでは「月額賃金改善要件(ベア要件)」が求められています。
・一時金だけで対応
・年度途中で支給を止めた
・基本給に組み込んだが根拠資料がない
これらは要件未達と判断されるリスクがあります。
④ 就業規則との不整合
規程にない手当を支給している
→ 処遇改善として認められない可能性あり
必ず、
・賃金規程
・支給実態
・賃金台帳
が一致している状態を作ってください。
⑤ 退職者の取り扱いミス
年度途中退職者への支給漏れや、過大計上が非常に多いです。在籍期間に応じた按分計算が必要になります。障害福祉サービスにおける処遇改善加算(2024年4月以降は「福祉・介護職員等処遇改善加算」に一本化)において、年度途中の退職者に関する「支給漏れ」や「過大計上」は、返還指導や行政処分の対象となる重要なリスクです。
計算期間と実際の賃金支払期間のズレが主な原因であり、以下のようなケースが該当します。
1. 年度途中退職者への「支給漏れ」とは
加算の対象期間(4月〜翌3月)において、退職時点までに事業所が受け取った加算分を、退職する職員に支給し忘れるケースです。
- 発生要因:
- ボーナス・一時金の対象外扱い:
3月末基準の賞与や年度末の一時金支給において、退職者を計算対象から外してしまう。 - 最終月の給与計算の抜け:
退職した月の加算分(最終月の報酬は翌月入金されるため、数ヶ月後に支払われるケースが多い)の処理を忘れる。
- ボーナス・一時金の対象外扱い:
- リスク:
- 本来受け取るべき職員への未払いとなり、労働トラブルに発展する可能性がある。
- 実態として「加算額 ≥ 賃金改善額」という要件を満たさなくなり、返還対象となる。
2. 年度途中退職者による「過大計上」とは
退職した職員の分として加算金を見込んで計画・報告していたものの、実際の賃金改善額がその見込みを下回る(=過大に報告している)ケースです。
- 発生要因:
- 「440万円以上」の対象者変更の不備:
経験・技能のある障害福祉人材として年額440万円以上の賃金改善計画を立てていたが、該当者が年度途中で退職し、その後任を適切に設定しなかった。 - 退職者分の給与減少:
高額な賃金改善を予定していた職員が早期に退職し、代わりの職員の賃金が低かったため、事業所全体での賃金改善総額が減少した。
- 「440万円以上」の対象者変更の不備:
- リスク:
- 実績報告書で「賃金改善所要額」が「加算の額」を下回るため、差額の返還を求められる。
3. 注意すべきポイントと対策
障害福祉サービス等の報酬算定における基本的なルールは以下の通りです
- 退職日までの勤務実績:
退職日までに勤務した期間に対応する加算は、退職者本人に支給する必要がある。退職したからといって支給対象外にはできない。 - 合理的な理由の提示:
年度途中で対象職員が退職した場合、その分を他職員で補填するなどの対応が必要。変更した場合は、指定権者に合理的な理由を説明する必要がある。 - 計画と実績の乖離:
年度末に、計画通りに賃金が引き上げられたか必ず確認し、差額が発生した場合は、速やかに是正措置を行うか、返還の準備をする。 - 440万円要件(特定加算):
440万円以上の賃金改善対象者が退職した場合、直ちに別の職員を対象にする等の見直しを行う。
まとめ
途中退職者が発生した場合は、必ず「最終退職日までの勤務実績分」が適切に計算されているかを確認し、支給漏れ(未払い)と過大計上(返還発生)の双方が起きないよう、計画の修正や一時金の支給など速やかな対応が求められます。
4月15日に向けた実践ロードマップ
ここからは、「今日から何をするか」を時系列で整理します。
【今すぐ】(〜3月中)
✔ 国保連の総額通知を4月分から揃える
✔ 賃金台帳を年度分整理
✔ 退職者・入職者の確認
✔ ベア実施状況の再確認
【3月下旬〜4月上旬】
✔ 加算収入総額の確定
✔ 賃金改善総額の試算
✔ 不足があれば3月賞与で調整
✔ 実績報告書(別紙様式3-2)下書き
【4月10日まで】
✔ 数値の最終確認
✔ 添付書類確認
✔ 控えをPDF保存
【4月15日】
✔ 管轄自治体へ提出
提出先は事業所所在地の自治体です。
例:
北海道内であれば
・札幌市指定 → 札幌市
・それ以外 → 管轄振興局(例:石狩振興局)
実績報告は「作業」ではなく「経営管理」
処遇改善加算は、
・職員定着
・採用力向上
・法人の信用力向上
につながる制度です。
しかし、
✔ 書類が揃っていない
✔ 計算根拠が説明できない
✔ ルールが整備されていない
状態では、監査で重大指摘を受ける可能性があります。
まとめ
実績報告は
- 加算収入を正確に把握する
- 賃金改善総額を正しく計算する
- 要件を満たしているか確認する
- 根拠資料を整理する
この4点がすべてです。
4月15日は「締切日」であって、
本当の準備は今から始まります。


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