令和8年6月から施行される
新設サービス「地域相談支援」。
この制度は、地域移行支援や地域定着支援といった既存の地域相談支援制度とどのように整理されるのか、またサービス提供事業所側にどのような影響があるのかについて、正確な理解が求められます。
特に事業主の立場では、
- 既存の相談支援との違いは何か
- 自事業所の運営にどのような影響があるのか
- 連携体制はどのように変わるのか
- 人員配置や体制整備に影響はあるのか
といった実務的な視点での整理が不可欠です。
制度の概要そのものをなぞるだけでは、実務対応にはつながりません。
重要なのは、「自事業所の経営とどう関係するのか」を具体的に理解することです。
本記事では、行政書士の視点から、
令和8年6月施行の新設サービス「地域相談支援」について、
✔ 制度の位置づけ
✔ 既存制度との関係整理
✔ 事業所側の実務的影響
✔ 今後検討すべき体制整備
を、後から読み返しても理解できるよう、文章中心で丁寧に解説します。
制度改正を単なる「情報」として終わらせず、
経営判断に活かすための実務資料としてご活用ください。
制度改正の背景と「地域相談支援」新設の目的
我が国の障がい福祉政策は、長らく「施設から地域へ」という大きな流れの中にあります。しかしながら、依然として精神科病院への長期入院や、入所施設での生活を余儀なくされている障がい者は少なくありません。また、一度地域生活に移行したものの、孤立や生活スキルの不足により再び施設や病院へ戻らざるを得ないケースも散見されます。
こうした課題に対応するため、令和8年6月施行の新制度では、既存の「地域移行支援」および「地域定着支援」の枠組みを抜本的に見直し、より包括的かつ重層的な支援を行うための新たな「地域相談支援」体系が構築されることとなりました。
本改正の最大の目的は、「切れ目のない支援体制の確立」にあります。単に住まいを確保するだけでなく、地域住民との関係構築、就労や日中活動の定着、さらには緊急時の対応までをワンストップに近い形、あるいは密接な連携体制の中で提供することで、利用者が安心して地域で暮らし続けられる基盤を作ることが求められています。
新設サービスの概要と対象者
(1)サービスの定義
新設される「地域相談支援」は、従来の相談支援事業所が担ってきた計画作成業務とは異なり、より実動的な支援に重点が置かれています。具体的には、利用者宅への定期的な訪問、関係機関との調整会議の主催、地域リソース(近隣住民、民生委員、ボランティア等)とのマッチングなど、コーディネーターとしての役割が強化されます。
(2)主な対象者
本サービスの対象となるのは、主に以下の要件を満たす方々が想定されています。
- 精神科病院に1年以上入院しており、退院に向けた支援が必要な方
- 障害者支援施設に入所しており、地域生活への移行を希望する方
- 地域生活を営んでいるものの、単身世帯や同居家族が高齢・虚弱であるため、緊急時の支援体制が必要な方
- 強度行動障害を有し、地域生活において専門的な助言や環境調整を継続的に必要とする方
特に、今回の改正では「強度行動障害」や「医療的ケアが必要な方」への支援体制強化が重点項目として挙げられており、これらの利用者を受け入れる事業所には高い報酬単価が設定される見込みです。
具体的なサービス内容と業務範囲
事業主様にとって最も関心が高いと思われる、具体的な業務内容は以下の通りです。これらは従来の特定相談支援事業よりも一歩踏み込んだ内容となっております。
① 地域生活移行に向けたインテンシブな支援
入院・入所中の方に対し、住居の確保や体験宿泊の調整を行うだけでなく、退院・退所後の生活リズムのシミュレーション、金銭管理の練習、公共交通機関の利用訓練など、生活スキル全般にわたる直接的な支援を行います。これには、同行支援などの実地訓練も含まれます。
② 地域定着のための24時間連絡体制の整備
地域生活を開始した利用者に対し、常時連絡が取れる体制(オンコール体制)を整備することが求められます。利用者の不安解消のための電話相談や、緊急事態発生時の駆けつけ支援などが含まれます。ただし、これらは必ずしも24時間常駐を意味するものではなく、電話転送や当番制などの柔軟な運用が認められる方向で調整が進んでいます。
③ 「地域づくり」への参画と調整
これが今回の新設サービスの大きな特徴です。個別の利用者支援にとどまらず、地域の社会資源を開発・調整する役割が求められます。例えば、地域の商店街や自治会に対して障がい理解の啓発を行ったり、利用者が参加できる地域のサークル活動を開拓したりといった、「地域そのものを耕す」活動が業務として評価されます。
指定基準および人員配置要件(予定)
指定を受けるためには、法人格を有することはもちろん、厳格な人員基準および設備基準を満たす必要があります。現段階での厚生労働省の指針案に基づき、想定される要件を以下にまとめます。
| 職種 | 要件および配置基準の概要 |
|---|---|
| 管理者 | 常勤1名(専従・兼務可)。 事業所の管理運営業務に加え、職員の指導監督を行う能力を有することが必要です。相談支援専門員との兼務が一般的となる見込みです。 |
| 相談支援専門員 | 常勤換算で2.5名以上等の配置強化が検討されています。 特に「主任相談支援専門員」の配置や、強度行動障害支援者養成研修(実践研修)修了者の配置が、基本報酬の算定要件や加算要件として必須化される可能性が高いです。 |
| 地域移行支援員 | 利用者数に応じた員数の配置。 従来の資格要件に加え、実務経験年数が重視される傾向にあります。 |
また、設備基準については、相談室のプライバシー確保(個室化や遮蔽物の設置)が厳格に求められるほか、オンライン相談に対応するための通信環境やセキュリティ対策(ウィルス対策ソフトの導入、VPNの利用等)も指定要件に含まれる可能性があります。
事業主様への影響と準備すべき事項
本制度の導入は、貴事業所にとって新たな収益の柱となる可能性がある一方で、専門性の高い人材の確保が大きな課題となります。
(1)人材育成の早期着手
令和8年の施行に向け、今から職員に各種研修(特に強度行動障害支援者養成研修、医療的ケア児等コーディネーター養成研修等)を受講させ、資格取得を奨励することが肝要です。資格保有者の有無が、指定申請の可否や報酬単価に直結します。
(2)関係機関とのネットワーク強化
新サービスでは、医療機関、行政、居住支援法人などとの連携実績が評価されます。今のうちから地域の自立支援協議会へ積極的に参加し、顔の見える関係を構築しておくことが、スムーズな事業開始への近道となります。
(3)BCP(業務継続計画)の策定と見直し
24時間の連絡体制や緊急時対応を含むサービスであるため、自然災害や感染症発生時における業務継続計画(BCP)の実効性が問われます。既存のBCPを見直し、より実践的な内容へとブラッシュアップしておく必要があります。
今後のスケジュールと申請手続きについて
今後の想定スケジュール
令和7年度中:詳細な省令・告示の公布、報酬単価の決定
令和8年1月~3月頃:各自治体による事業者説明会の開催
令和8年4月頃:指定申請の受付開始(事前協議含む)
令和8年6月1日:制度施行・サービス提供開始
指定申請においては、定款の目的変更(事業目的に「地域相談支援事業」等の記載が必要)や、消防署への届出、実務経験証明書の収集など、膨大な事務作業が発生します。特に定款変更には株主総会や法務局での登記手続きが必要となるため、時間的な余裕を持って準備を進める必要があります。


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