令和7年6月27日付の札幌市通知(札障第1339号)において、就労継続支援B型事業所に対する運営基準違反の具体例が公表されました。
この事案では、単なる軽微なミスではなく、
・工賃算定の根拠不備
・支援記録の未整備
・訓練等給付費の不正請求
といった複数の問題が重なり、最終的に指定取消という重い処分に至っています。
重要なのは、この事例が“特殊なケースではない”という点です。
むしろ、日々の運営の中で見落とされがちなポイントが、そのまま違反として認定されています。
本記事では、札幌市の通知内容をもとに、
「何が違反と判断されたのか」
「なぜ処分にまで発展したのか」
を整理したうえで、事業者として今すぐ確認すべき実務ポイントを解説します。
自事業所の運営を見直すチェックリストとして、ぜひ最後までご覧ください。
今回の指定取消事例の本質|「ありがちな運営」が違反と認定された
札幌市の通知(令和7年6月27日付・札障第1339号)で示された事例は、特別に悪質なケースというよりも、「日常的に起こり得る運営の積み重ね」が処分につながった典型例です。
実際に確認された違反は以下のとおりです。
- 工賃算定の根拠が不明確(収入・経費の未区分)
- 支援記録や出勤簿等の未整備
- 個別支援計画未作成にも関わらず給付費を請求
- 結果として不正請求と認定
つまり、「制度を理解していなかった」「記録を後回しにしていた」といった状態が、そのまま違反として認定されています。
重要なのは、このレベルでも指定取消に至るという点です。
違反① 工賃の算定が不適切|“なんとなく支払っている”は通用しない
収入と経費が区分されていない
今回の事例で最も本質的な問題はここです。
本来、工賃は
「生産活動の収入-必要経費」
で算定しなければなりません。
しかし当該事業所では、
- 生産活動の売上が明確でない
- 経費との区分がされていない
という状態であったため、「適正な工賃を支払っているとは認められない」と判断されました。
よくある“グレー運用”がそのままアウトになる
現場では次のような運用が散見されます。
- 売上と給付費が混在している
- 経費の按分が曖昧
- 収支の裏付けが説明できない
これらは一見問題なさそうに見えても、監査では確実にチェックされるポイントです。
「説明できない=違反」と判断されるリスクがあるため、収支構造の見える化は必須です。
違反② 記録不備|“やっている”だけでは評価されない
必要な記録がそもそも存在していない
今回の事例では、以下の記録が未整備でした。
- サービス提供記録
- 利用者支援記録
- 従業者の出勤簿
- 工賃向上計画
- 工賃規程
- 施設外就労・在宅就労の記録
これは単なる不備ではなく、「適正に運営していると認められない」レベルの問題です。
記録がない=支援していないと判断される
実務上ありがちなのが、
「支援はしているが、記録が追いついていない」
というケースです。
しかし制度上は、
- 記録がある → 実施したと認められる
- 記録がない → 実施していないと扱われる
という極めてシンプルな判断になります。
つまり、記録の未整備は、そのまま不正請求リスクに直結します。
違反③ 個別支援計画未作成+給付費請求|明確な“不正”
減算対象と認識しながら請求していた
通知では、
- 個別支援計画の見直し未実施
- 減算対象と認識していた
にもかかわらず、通常通り給付費を請求していたことが指摘されています。
これは単なるミスではなく、「不正請求」として認定される典型例です。
「分かっていたかどうか」が判断に影響する
行政の判断では、
- 知らなかった → 指導
- 知っていた → 不正
と扱いが大きく変わります。
今回のように「認識していたにもかかわらず請求した」場合、悪質性が高いと判断され、処分が重くなる傾向があります。
違反④ 組織全体の問題|他サービスでも不正が確認
この事例では、同一法人が運営する共同生活援助においても、
- 偽装雇用
- 虚偽報告
- 監査忌避
といった重大な違反が確認され、既に指定取消処分を受けています。
つまり、単一のミスではなく、「法人としてのコンプライアンス意識の欠如」が問題視されています。
通知で示された“やってはいけない運営”の具体例
札幌市は、今回の事例を踏まえ、明確にNG行為を示しています。
能力が低い利用者の受入拒否はNG
工賃確保を理由に、
- 生産性の低い利用者を断る
といった対応は正当な理由にはなりません。
B型はあくまで「就労支援」であり、選別は認められていません。
通所日数を条件に契約解除するのはNG
- 「月●日以上通所しないと契約解除」
といったルールも認められません。
利用者の通所や作業量は、個々の状況に応じて柔軟に対応する必要があります。
利用者ごとの工賃差別はNG
- 能力差を理由に工賃額を変える
- 作業未達で減額する
こうした運用も禁止されています。
ただし、作業内容ごとに工賃設定を行うことは可能であり、その設計が重要になります。
見落とされがちな重大リスク|返還・指定取消に直結するポイント
今回の通知から読み取れるのは、「形式的な違反でも重い処分につながる」という点です。
特に注意すべきは以下です。
給付費の返還リスク
- 不適切な工賃設定
- 不正な報酬区分
これらが認定された場合、差額返還が求められます。
金額も大きく、経営への影響は深刻です。
在宅就労・施設外就労の不適切運用
- 実態のない在宅支援
- 記録が伴わない外部作業
これらは近年特に厳しくチェックされています。
利益供与の禁止違反
- 紹介料の支払い
- 利用者への祝い金
といった行為も、明確に禁止されています。
「営業の一環」としてやっている場合は特に危険です。
今すぐ見直すべきチェックリスト【自己点検用】
最後に、自事業所を振り返るためのチェックポイントを整理します。
工賃の算定根拠は明確か
- 収入と経費が区分されているか
- 説明できる資料があるか
記録はすべて揃っているか
- 支援記録
- 出勤簿
- 工賃関連書類
「後でまとめて」は通用しません。
個別支援計画は適切に運用されているか
- 定期的な見直し
- 減算の適用漏れがないか
運営ルールが条例に適合しているか
- 利用者選別をしていないか
- 契約条件に問題がないか
まとめ|「普通の運営」が違反になる時代
今回の事例が示しているのは、「特別な不正をしなくても、処分される時代になった」ということです。
- 記録がない
- 根拠が説明できない
- 制度理解が曖昧
これらはすべて、違反として認定され得ます。
逆に言えば、
- 収支の透明化
- 記録の徹底
- 制度の正確な理解
この3点を押さえることで、大きなリスクは回避できます。
指定更新の要件化も控えている中で、今の運営を一度棚卸しすることが、今後の事業継続に直結します。
“問題が起きてから対応する”のではなく、“問題にならない体制を作る”ことが、これからの就労継続支援B型事業所には求められています。


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