【2026年以降】建設業で価格交渉は拒否できる?取適法が求める協議義務とは

取適法の施行による価格交渉の規制について解説する記事のアイキャッチ画像 建設業許可

あらゆるモノの値段が高騰する現代、建設業が持続的に発展していくためには、コスト上昇分を適切に請負代金に転嫁することが不可欠です。しかし、立場の弱い下請事業者(受託事業者)が元請事業者(委託事業者)に対して価格交渉を行うことは容易ではありません。

そこで、政府は従来の「下請代金支払遅延等防止法(下請法)」を抜本的に改正し、「中小受託取引適正化法(通称:取適法)」として2026年1月1日に施行しました。この新法では、特に「価格交渉(協議)」のプロセスが重要視されています。

前回は、資金繰り改善のための「手形決済・でんさい」に関する規制強化について解説しました。今回は、建設会社の経営に直結する「原材料高騰時の価格交渉権」と、取適法で新たに定められた「協議義務」について、建設業の実務に即して詳しく解説します。

前回と前々回の記事でも、取適法について詳しく解説しております。
興味があればどうぞお読みください。
【取適法の概要】
https://otokawa-gyouseishoshi.com/blog/toritekiho-kensetsu/
【手形の規制】
https://otokawa-gyouseishoshi.com/blog/kensetsu-tegata-densai-2026/

取適法はすべての取引に適用されるわけではありません。特に建設業においては、建設業法との棲み分けが重要となります。

原則として、建設業法第2条第1項に規定される「建設工事」の請負契約は、取適法の対象外となります。

これは、建設工事の施工そのものについては、すでに「建設業法」によって下請保護の規定が整備されているためです。したがって、ビル建設工事、土木工事、内装工事などの施工を再委託(下請に出す)する場合は、従来通り建設業法のルールに従うことになります。

しかし、建設業者が行う取引であっても、その内容が「工事の施工」以外である場合には、取適法が適用される可能性があります。以下のような取引は取適法の対象となります。

取引類型具体的な適用例
① 製造委託特注の木製建具やスチールサッシの製造委託プレカット材の加工委託生コンクリートやコンクリート二次製品の製造委託特注家具の製作委託
② 情報成果物
作成委託
建築設計図書(意匠・構造・設備)の作成委託施工図、CADデータ、BIM/CIMモデルの作成委託パース図やプレゼン資料の作成委託
③ 役務提供委託建設機械の保守・メンテナンス委託完成建物の警備、清掃業務の委託現場事務所の清掃委託
④ 運送委託建設資材の現場への運送委託建設副産物(残土や廃棄物)の運搬委託

どちらの法律が適用されるか迷った場合は、以下のフローで判断します。

取引の内容は「建設工事の施工」そのものか?

Yes

建設業法が適用
(取適法は対象外)

No

取適法が適用の可能性あり
(資本金要件等を確認)

※「資材の製造」と「取り付け工事」をセットで発注する場合などは、主たる目的がどちらにあるかで判断されますが、実務上はより厳しい規制を遵守する姿勢が求められます。

2026年施行の取適法における最大の改正ポイントの一つが、

「協議に応じない一方的な代金決定」の禁止です。

  • 受託事業者(下請)の権利:原材料費等の高騰時に、代金の増額に向けた「協議」を申し入れる権利があります。
  • 委託事業者(元請)の義務:下請からの協議の申し入れに対して、誠実に応じる義務があります。

以下の要件を満たす場合、元請が一方的に代金を決定することは違法となります。

【要件①】給付に関する費用の変動その他の事情が生じた場合
これまでの契約単価では採算が合わなくなるような事情変更があった場合です。
・労務費(最低賃金の上昇など)、原材料価格、エネルギーコスト(燃料費・電気代)の高騰
・納期の短縮、納入頻度の増加など、元請都合による条件変更
・発注数量の大幅な減少による単価コストアップ

【要件②】中小受託事業者が代金に関する協議を求めた
・方法は「書面」でも「口頭」でも構いません(実務上は証拠を残すため書面推奨)。
・「協議してください」という明示的な言葉でなくても、値上げした見積書を再提出する行為なども、協議を求めたことになります。

【要件③】協議に応じず、または必要な説明・情報提供をせず
以下のような対応は「協議に応じない」とみなされます。
・「うちは値上げには一切応じない」と門前払いする。
・「検討する」と言って放置し、回答を先延ばしにする。
・「詳細な原価計算書を出せ」など、過度な資料要求を協議の条件にする。
・形式的に面談はしたが、価格を据え置く理由を具体的に説明しない。

【要件④】一方的に代金を決定すること
最も注意すべき点は、「代金を据え置くこと」も「決定」に含まれるということです。
コストが上がっているのに、十分な協議をせずに「従来通りの価格」で発注書を発行することは、違法となるリスクが高い行為です。

  • 例1:量産期間が終了しコストが上がっているのに、下請からの協議要請を無視して、量産時と同じ単価で発注し続けた。
  • 例2:下請が公的統計などの客観的資料を示して値上げを求めたが、元請が「社外秘の製造原価データを出さないなら協議しない」と拒否した。
  • 例3:元請から「原価低減(値下げ)」を要請された際、下請がその理由を尋ねたが、明確な説明をせずに一方的に単価を切り下げた。
  • 多数の下請事業者に対して、個別の協議は行わなかったが、下請からの要請額を上回る水準で一律に単価を引き上げた場合。(下請の利益を害していないため)

契約後に代金を減らす「減額」についても、厳しく規制されています。

建設工事(取適法対象外)の場合も、建設業法第19条の3により「不当に低い請負代金の禁止」が定められています。また、指値発注(元請が一方的に決めた金額で契約を強要すること)や、赤伝処理(合意なく下請代金から諸経費等を差し引くこと)も、建設業法違反となるおそれがあります。

取適法(第5条第1項第3号)では、下請事業者に責任がないのに、発注時に決めた代金を後から減額することを禁止しています。「協賛金」「歩引き」などの名目であっても、実質的に代金を減らす行為は違法です。

「買いたたき」とは、通常支払われる対価に比べて著しく低い額を不当に定めることです。

「協議拒否」と「買いたたき」の違い

  • 協議拒否:代金を決定するまでの「プロセス(話し合い)」が不十分であることが問題。
  • 買いたたき:決定された代金の「水準(金額)」が著しく低いことが問題。

※コスト上昇時に協議せずに価格を据え置くことは、「協議拒否」と「買いたたき」の両方に該当する可能性があります。

元請に対して価格交渉を行う際は、以下の点に注意してください。

① 協議請求の方法

  • 必ず「書面」または「電子メール」で記録を残してください。
  • 「いつ」「誰に」「どのような内容で」申し入れたかが重要です。
  • 公正取引委員会が公表している「価格交渉申入れ様式」などを活用しましょう。

② 協議で説明すべき事項(根拠資料)

  • 単なる「苦しいから上げてほしい」ではなく、客観的な根拠を示します。
  • 最低賃金の上昇率(厚労省データ)、資材価格の推移データ(建設物価等)、仕入先からの値上げ通知書などが有効です。
  • 詳細すぎる内部情報の開示は必須ではありません。合理的な範囲での説明で十分です。

③ 記録の作成・保存

  • 協議の日時、相手方の発言内容、提示した資料などを記録(議事録やメモ)し、最低3年間は保存しましょう。

下請から価格交渉を求められた場合、元請は以下の対応が求められます。

① 協議に応じる義務

  • 協議の求めを無視したり、放置したりしてはいけません。
  • 担当者は速やかに上長に報告し、協議の日程を設定してください。

② 必要な説明・情報提供

  • もし、下請からの値上げ要請を受け入れられない(満額回答できない)場合は、「なぜ受け入れられないのか」の理由と根拠を具体的に説明する必要があります。
  • 回答は口頭だけでなく、書面やメールで行うことが望ましいです。

③ 協議記録の作成・保存

  • 後で「言った・言わない」のトラブルにならないよう、協議内容は必ず記録に残し、双方で共有・確認してください。
  • 取適法第4条により、取引記録の保存が義務付けられています。

取適法に違反した場合、企業にとって重大なリスクとなります。

措置の種類内容
行政措置公正取引委員会や中小企業庁による立入検査是正勧告および企業名の公表(Webサイト等で社名が晒され、社会的信用が失墜します)
刑事罰書面交付義務違反や虚偽報告などに対し、50万円以下の罰金(両罰規定あり)
民事上の効果減額した代金の返還請求年率14.6%の遅延利息の支払い義務
その他建設業法に基づく指導や処分、指名停止措置のリスク

ケーススタディ1:鋼材価格高騰時の価格交渉(製造委託)

【状況】建設会社A社(元請)は、鉄骨製造会社B社(下請)に鉄骨製造を委託。鋼材価格が20%上昇し、B社が価格改定を申し入れた。

【× 違法な対応例】

A社担当者:「予算が決まっているから無理。他社も据え置いている。」とだけ回答し、具体的な協議の場を設けず、従来価格で発注書を送った。

→ 「協議に応じない一方的な代金決定」および「買いたたき」に該当する可能性大。

【○ 適法な対応例】

A社担当者:速やかにB社と面談。B社提示の鋼材価格指数データを確認。「全額は厳しいが、材料費上昇分の10%は当社で負担する」と提案し、合意に至った。協議内容は議事録に残した。

ケーススタディ2:設計図書作成委託での価格交渉

【状況】建設会社C社は、設計事務所D社に図面作成を委託。最低賃金上昇に伴う人件費増で、D社が値上げを要請。

【× 違法な対応例】

C社担当者:「従業員全員の給与明細と詳細な原価内訳を出せ。出せないなら協議しない。」と過度な要求を行い、協議を実質的に拒否した。

→ 合理的な範囲を超えた情報提供を条件としており、違法の可能性が高い。

【○ 適法な対応例】

C社担当者:D社提示の最低賃金上昇率データを確認。「一律15%アップは難しいが、納期を緩和する条件で8%アップではどうか」と代替案を提示し、建設的な協議を行った。

ケーススタディ3:建設資材運送委託での価格交渉

【状況】建設会社E社は、運送会社F社に資材運送を委託。燃料高騰でF社が運賃値上げを要請。

【× 違法な対応例】

E社担当者:メールでの要請を無視し続けた。再度の電話にも「検討中」と答えるばかりで、数ヶ月間放置した。

→ 協議を不当に先延ばし(無視)しており、違法となる。

【○ 適法な対応例】

E社担当者:2週間以内に協議を実施。「燃料サーチャージ方式」を導入し、燃料価格に連動して運賃を調整するルールを新たに契約書に盛り込んだ。

  1. 方針の明確化:「適正な価格転嫁を受け入れる」というトップの方針を社内に明示してください。コンプライアンス遵守は企業の存続に関わります。
  2. 社内体制の整備:現場担当者が独断で「値上げ拒否」をしないよう、相談ルートや決裁ルールを整備してください。
  3. 取引先との信頼構築:自社が元請の立場なら下請を守り、自社が下請の立場なら恐れずに協議を申し入れる、健全なパートナーシップを築いてください。
  1. 記録の徹底:あらゆる交渉は「書面(メール含む)」で残す癖をつけてください。
  2. 適時の協議請求:コスト上昇が判明したら、手遅れになる前に速やかに根拠資料を添えて協議を申し入れてください。
  3. 誠実な対応:下請からのSOSを無視せず、真摯に耳を傾け、合理的な解決策を一緒に探ってください。

【下請事業者(受注者)向け】

  • コスト上昇の状況を定期的に把握しているか
  • コスト上昇の根拠資料(公表データ、仕入伝票等)を整理しているか
  • 価格改定の協議を「書面」で申し入れているか
  • 協議の記録(議事録、メモ)を保管しているか
  • 元請から不当な対応を受けた場合の相談先を把握しているか

【元請事業者(発注者)向け】

  • 下請からの協議請求を無視・放置していないか
  • 協議を拒否したり、先延ばしにしていないか
  • 合理的な範囲を超えた過度な情報提示を求めていないか
  • 価格を据え置く場合、その理由を具体的に説明しているか
  • 協議の経緯や結果を記録し、保存しているか
  • 公正取引委員会:下請法相談窓口
  • 中小企業庁:取引適正化相談窓口(下請かけこみ寺)
  • 国土交通省または各都道府県の建設業担当部署

※本資料は2026年2月時点の法令・ガイドラインに基づいて作成しています。
※個別具体的な案件や法的判断については、弁護士等にご相談ください。

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