2026年1月より、長年「下請法」として親しまれてきた法律が改正され、新たに「中小受託取引適正化法(通称:取適法 とりてきほう)」として施行されました。
建設業においては、工事の請負契約には原則として「建設業法」が適用されるため、「下請法(取適法)は製造業の話であって、我々には関係ない」とお考えの経営者様も少なくありません。
たしかに建設業においては「建設業法」によって下請けの保護規定が設けられているため、基本的に下請け工事は「下請法」の適応対象外です。ですので、今回改正のあった取適法も以下の工事については適応の対象になりません。
- 基礎工事の下請
- 内装工事の下請
- 配管工事の下請
- 電気工事の下請
👉 これは建設工事そのもの
👉 建設業法の世界
👉 取適法は適用外
しかし、建設業であっても、下請法(→今回の取適法)は業種横断的な取引適正化法なので、建設業法があるから「全ての業務が適用除外」というわけではありません。実際、以下の仕事を行う場合には取適法が適応になります。
- 特注資材の製造委託
- 設計図面の外注
- 重機の修理委託
- 運送会社への資材運搬委託(特定運送委託)
👉 これは「建設工事」ではない
👉 取適法の対象類型に該当
建設業に付随したこれらの仕事については、この新しい法律の適用対象となる可能性があります。本改正では対象範囲が拡大されており、知らず知らずのうちに法律違反(コンプライアンス違反)となるリスクが高まっています。
本記事では、建設業の経営者様および実務担当者様に向けて、今回の法改正が建設業の実務にどのような影響を与えるのか、旧法との違いや具体的な対応策についてわかりやすく解説するものです。
中小受託取引適正化法(取適法)とは
基本情報
- 正式名称:特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律
および改正下請代金支払遅延等防止法 - 通称:中小受託取引適正化法(取適法)、新下請法
- 施行日:2026年(令和8年)1月1日
法改正の背景と目的
近年、原材料費やエネルギー価格、労務費の上昇が続いています。しかし、立場の弱い中小企業が、発注者に対して価格転嫁(値上げ)を言い出しにくい状況が課題となっていました。
そこで、従来の「下請法」を抜本的に改正し、「取引の適正化」と「価格転嫁の円滑化」を強力に推進するために生まれたのが取適法です。発注者と受注者の対等な関係を構築し、中小企業が適正な利益を確保できる環境を作ることが目的です。
旧下請法からの主な変更点
今回の改正は、単なる名称変更にとどまらず、規制の強化や適用範囲の拡大が含まれています。
- 主な変更点:
- 対象拡大: 従来の適応対象事業のルール(業種、資本金)に加え、元請けと下請けの従業員数によっても適応するように対象を拡大した
- 手形禁止: 2026年度末までに手形払いを原則禁止へ
- 価格転嫁: 原材料や労務費高騰時に、受注側が求めた価格引き上げ協議を正当な理由なく拒否できない
- 義務・禁止: 書面の即時交付義務、取引記録の2年保存義務
| 項目 | 旧:下請法 | 新:取適法(2026年〜) |
|---|---|---|
| 用語の変更 | 親事業者 下請事業者 | 委託事業者(発注側) 中小受託事業者(受注側) ※上下関係のイメージを払拭 |
| 適用基準 | 資本金のみ | 資本金 または 従業員数 ※資本金が小さくても従業員が多い企業は規制対象に |
| 対象取引 | 製造、修理、情報成果物、役務 | 上記4つ + 特定運送委託 ※物流の「2024年問題」に対応 |
| 禁止行為 | 買いたたき等 | 「協議を経ない代金決定」の禁止 「手形払い(サイト60日超)」の規制強化 |
適用対象となる事業者(資本金・従業員基準)
取適法が適用されるかどうかは、「取引の内容」と「発注者・受注者の規模(資本金または従業員数)」の組み合わせで決まります。
新設された「従業員数基準」に注意
これまでは資本金3億円以下の企業であれば、たとえ大企業並みの規模があっても「親事業者」として扱われないケースがありました。しかし、改正により「常時使用する従業員数」も判断基準に加わりました。
【判定基準】以下のいずれかに該当すれば適用(発注者側)
区分①:製造委託・修理委託・特定運送委託など
- 資本金 3億円超 または 従業員数 300人超 の事業者が、
資本金 3億円以下 または 従業員数 300人以下 の事業者に発注する場合 - 資本金 1,000万円超〜3億円以下 または 従業員数 300人超 の事業者が、
資本金 1,000万円以下 の事業者に発注する場合(※詳細条件あり)
※上記は簡略化した目安です。正確な適用区分は、取引相手との規模の格差によって決定されます。
建設業のポイント:
自社の資本金が少なくても、従業員数が一定数(例:300人、または取引内容により100人)を超えている場合、発注者(委託事業者)として規制を受ける可能性があります。
「常時使用する従業員」のカウント方法
- 対象: 賃金台帳に記載される正社員、契約社員、パートタイマーなど。
- 除外: 日雇い労働者など。
- 基準日: 具体的な計算ルールは公正取引委員会の「運用基準」に基づくため、最新のガイドブック(取適法リーフレット)の確認が必要です
取引の構図
- 対象となる取引: 「300人超(または100人超)の会社」対「300人以下(または100人以下)の会社・個人事業主」。
- ポイント: 中小受託事業者(受注側)にとっては、これまで資本金基準で対象外だった取引も、新たに下請法と同等の保護(書面交付義務、代金支払遅延の禁止など)を受けられるようになります。
適用対象となる取引と建設業の特殊性
建設業において最も重要なのが、「どの取引が対象で、どの取引が対象外か」の切り分けです。
対象となる5つの取引類型
- 製造委託:物品の製造や加工を委託すること。
- 修理委託:物品の修理を委託すること。
- 情報成果物作成委託:設計図、プログラム、映像などの作成を委託すること。
- 役務提供委託:自社が請け負ったサービス業務を再委託すること。
- 特定運送委託(NEW):資材等の運送を委託すること。
【重要】建設工事は原則「対象外」
建設業法第2条に規定される「建設工事」の請負契約は、取適法の対象外です。これは、建設工事については「建設業法」によって別途、下請保護の規定が設けられているためです。
しかし、建設業者が行う取引のすべてが建設工事ではありません。ここが誤解しやすいポイントです。
建設業における具体的な適用事例
建設会社が行う発注行為の中で、取適法の対象となるもの、ならないものを整理しました。
| 取引の内容 | 判定 | 理由・解説 |
|---|---|---|
| 工事の下請負 (基礎工事、内装工事、配管工事など) | 対象外 | 建設業法の適用を受ける「建設工事」であるため。 |
| 資材の製造委託 (特注の鉄骨、プレキャストコンクリート、オーダーメイド建具の発注) | 対象 | 仕様を指定して物品を作らせる行為は「製造委託」に該当します。既製品(カタログ品)の購入は対象外です。 |
| 設計図・施工図の作成委託 (設計事務所や製図業者への外注) | 対象 | 成果物としての図面作成を依頼するため、「情報成果物作成委託」に該当します。 |
| 建設機械・車両の修理 (整備業者への修理依頼) | 対象 | 自社で使用する機械等の修理を委託する場合は「修理委託」に該当します。 |
| 資材・残土の運搬 (運送会社への配送依頼) | 対象 | 新設された「特定運送委託」に該当する可能性があります。特に、自社で運ぶべきものを他社に運ばせる場合は注意が必要です。 |
<判断が難しいケース:材工共(ざいこうとも)>
「材料の製造」と「取り付け工事」をセットで発注する場合(材工共)、主たる目的が「工事」であれば建設業法が適用され、取適法は対象外となるのが一般的です。しかし、契約内容が「物品の購入(製造)」と「設置作業」に明確に分かれている場合などは個別の判断が必要です。
委託事業者(発注者)の義務
取適法の対象となる取引(製造委託等)を行う場合、発注者には以下の4つの義務が課されます。
- 書面の交付義務(発注書面):
発注と同時に、直ちに給付内容、代金、支払期日等を記載した書面(3条書面)を交付しなければなりません。
※改正により、メール等での交付要件が緩和される見込みですが、明示義務自体は厳格です。 - 書類の作成・保存義務:
取引の記録(5条書類)を作成し、2年間保存する必要があります。 - 支払期日の設定義務:
物品等の受領日(検査完了日ではありません)から起算して60日以内の、できる限り短い期間内で支払期日を定めなければなりません。 - 遅延利息の支払義務:
支払期日を遅れた場合、受領日から60日を経過した日から、年率14.6%の遅延利息を支払う義務があります。
委託事業者の禁止行為(11項目)
以下の行為は、発注者側の事情や悪意の有無にかかわらず、原則として違法となります。特に太字の項目は建設業でも発生しやすいトラブルです。
- 受領拒否: 注文したのに、納期になっても「現場が遅れているから」と受け取らないこと。
- 下請代金の支払遅延: 決めた期日までに払わないこと。
- 下請代金の減額: 「端数切り捨て」「協力値引き」などとして、発注時の金額から減らすこと。
- 返品: 不良品でもないのに引き取らせること。
- 買いたたき: 通常支払われる対価に比べ、著しく低い額を無理やり決定すること。
- 購入・利用強制: 「このメーカーの材料を買え」などと指定し、受託者の利益を害すること。
- 報復措置: 公正取引委員会等に通報したことを理由に取引を停止すること。
- 有償支給原材料等の対価の早期決済: 下請代金の支払日より前に、支給した材料費を徴収すること。
- 割引困難な手形の交付: 支払期日までに現金化が困難な手形(長期手形)を渡すこと。
※2026年以降、手形サイトは「60日以内」が厳格に求められます。 - 不当な経済上の利益の提供要請: 「協賛金」や「土日イベントの手伝い」などを強要すること。
- 不当な給付内容の変更・やり直し: 費用を負担せずに、急な仕様変更ややり直しをさせること。
【新設】協議を経ない代金決定の禁止
今回の改正で強調されている点です。労務費や原材料費のコスト上昇分について、受注者から協議の申し出があったにもかかわらず、協議に応じずに一方的に従来通りの価格を据え置くことは違反となります。
まとめと今後の対応
建設業者にとって、取適法(旧下請法)は「工事以外の発注」において非常に重要な法律です。2026年の施行に向け、以下のポイントを社内で確認してください。
実務での対応チェックリスト
- 自社が発注している取引の中に、「製造委託」「修理委託」「図面作成委託」「運送委託」が含まれていないか棚卸しをする。
- 取引先(中小受託事業者)との資本金・従業員数のバランスを確認し、適用対象となるか判定する。
- 発注書面(注文書)は、工事用だけでなく、物品作成用や運送用など、適切な書式を用意しているか確認する。
- 支払サイトは「受領から60日以内」になっているか。手形払いの場合はサイト短縮(60日以内)の準備を進めているか。
- 資材業者や加工業者からの「価格交渉(値上げ要請)」に対して、門前払いせず、誠実に協議する体制ができているか。
本法律は、中小企業を守るためのものですが、発注者側にとっても、サプライチェーン全体を安定させ、適正な取引関係を築くために不可欠なルールです。施行は既に到来していますので、まだ準備が不十分だという事業所については準備をお願いいたします。
本資料は2025年2026年2月時点の情報を基に作成しています。
個別の事案については、行政書士や公正取引委員会の相談窓口にご確認ください。


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