令和9年4月から、札幌市における就労継続支援B型の指定更新において、平均工賃月額3,000円以上などの要件が厳格に適用されることになります。
一方で、札幌市は通知の中で、
「指定を更新しなければ、利用者の福祉を著しく損ねるおそれがあると認める場合」には、初回更新に限り、この要件を満たしていなくても更新を認める可能性があるとしています。
しかし実務では、
「どんなケースがこの例外に該当するのか分からない」
「うちの事業所は対象になるのか判断できない」
「例外を前提にして大丈夫なのか不安」
といった疑問や不安がよぎることと思います。
この例外は明確な数値基準がなく、札幌市の裁量による個別判断となるため、誤った理解のまま対応すると、更新不可という重大なリスクにつながる可能性があります。
本記事では、この「更新例外」の考え方について、
・札幌市が想定している可能性が高いケース
・該当しやすい事業所の特徴
・認められにくいケース
・実務上の判断ポイントと対策
を整理し、「例外に頼るべきかどうかの判断基準」を分かりやすく解説します。
令和9年4月からの更新要件厳格化と「例外規定」の位置づけ
令和9年4月以降、札幌市における就労継続支援B型事業所の指定更新は、大きな転換点を迎えます。特に重要なのが、「平均工賃月額3,000円以上」という基準をはじめとした条例遵守の徹底であり、この要件を満たしていない事業所については、原則として指定更新が認められない運用が明確に打ち出されています。
この改正の背景には、単なる制度変更ではなく、「工賃の原資は本来、生産活動収入であるべき」という制度趣旨の再徹底があります。つまり、従来のように訓練等給付費によって工賃を補填するような運営は是正されるべきであり、実質的な生産活動を伴わない事業所は淘汰される方向にあるといえます。
このような厳格化の流れの中で設けられているのが、「指定を更新しなければ、利用者の福祉を著しく損ねるおそれがある場合」という例外規定です。一見すると救済措置のように見えますが、その実態は決して広く適用されるものではありません。
まず重要なのは、この例外には明確な数値基準や類型が存在しないという点です。つまり、「こういう条件を満たせば必ず認められる」というものではなく、あくまで札幌市による個別判断、いわゆる裁量によって決定されます。この時点で、事業者としては非常に不確実性の高い制度であることを理解しておく必要があります。
さらに、この例外はあくまで「初回更新時に限る」とされており、恒常的に基準未達を許容する趣旨ではありません。つまり、改善の見込みや努力が前提にあり、「一時的な猶予措置」としての性格が強い制度です。
したがって、実務上の位置づけとしては、「例外があるから大丈夫」という発想ではなく、「基本は基準クリア、どうしても無理な場合に限り例外を検討」というスタンスが求められます。この認識を誤ると、更新不可という重大なリスクに直結します。
「利用者の福祉を著しく損ねる場合」とは何か|判断の本質
では、札幌市がいう「利用者の福祉を著しく損ねるおそれがある場合」とは、具体的にどのような状況を指すのでしょうか。
結論から言えば、この文言の本質は非常にシンプルです。それは、「この事業所がなくなると、利用者の生活が現実に破綻するレベルの影響があるか」という一点に集約されます。
ここで重要なのは、「不便になる」「困る」程度では足りないという点です。あくまで「著しく損ねる」、つまり生活の継続や社会参加に重大な支障が生じるレベルであることが求められます。
この判断は、大きく3つの観点から行われると考えられます。
1つ目は、「代替手段の有無」です。
利用者が他の事業所に移行できるのであれば、原則として「著しく損ねる」とは評価されません。逆に、地域に代替事業所が存在しない、または受入れが困難である場合には、この要件に該当する可能性が高まります。
2つ目は、「利用者の特性と支援の必要性」です。
重度障害者や行動障害のある利用者など、一般的な事業所では対応が難しいケースでは、その事業所が担っている役割の重要性が高く評価される傾向にあります。
3つ目は、「事業所の機能的な不可欠性」です。
単に通所先として存在しているのではなく、地域において特定の役割を果たしている場合、例えば特定障害に特化した支援や、社会復帰支援などを担っている場合には、代替困難性が認められやすくなります。
このように見ていくと、この例外は「事業者の経営を守るための制度」ではなく、「利用者の生活を守るための最終手段」であることが分かります。したがって、事業所側の事情ではなく、あくまで利用者側の不利益が中心に評価される点を押さえておく必要があります。
該当しやすい具体的ケース|札幌市が想定している可能性が高い状況
実務上、この例外に該当する可能性があるケースは、ある程度パターン化できます。
まず最も典型的なのが、「地域に代替資源がないケース」です。
特に、郊外や交通アクセスが悪い地域では、そもそもB型事業所の数が限られており、利用者が他の事業所に移ることが現実的でない場合があります。このような状況で指定更新を認めない場合、利用者が通所先を失い、生活リズムの崩壊や社会的孤立につながるおそれがあります。
次に、「重度者・支援困難者を多く抱えているケース」です。
例えば、常時見守りが必要な利用者や、行動障害・精神症状が強い利用者が中心の事業所では、一般的なB型では受入れが難しい場合があります。このような事業所は、工賃を上げにくい構造的な課題を抱えている一方で、社会的には不可欠な役割を担っていると評価される可能性があります。
また、「特定ニーズに特化した事業所」も該当しやすいと考えられます。
例えば、高次脳機能障害、ひきこもり、矯正施設出所者など、特定の支援ニーズに対応している場合、代替可能な事業所が存在しないことが多く、利用者にとっての影響が大きくなります。
さらに、「利用者の生活基盤と強く結びついているケース」も重要です。
長期間同じ事業所を利用している場合、環境の変化が精神的・身体的に大きな負担となることがあります。特に精神障害の利用者では、環境変化による状態悪化のリスクが高く、慎重な判断が求められます。
最後に、「改善途中であるケース」も一定の考慮がされる可能性があります。
工賃向上の取組を行っているものの、一時的に基準未達となっている場合には、即時の更新拒否ではなく、経過措置として認められる余地があります。ただし、この内容については特異中の特異だと考えた方が良いでしょう。基本的に札幌市は、「支援」と「運営」の両輪が揃わない事業所は更新しないと明言しているので、ここにすがるのは危険と言わざるを得ません。
認められにくいケース|ここを誤ると危険
一方で、この例外が認められる可能性が極めて低いケースも明確です。
まず、「単なる経営努力不足」です。
営業活動を行っていない、仕事を確保できていない、工賃向上の取組が見られないといった場合は、制度の趣旨からして対象外です。これは今回の改正で是正されるべき典型例であり、救済の対象にはなりません。
次に、「代替可能性があるケース」です。
近隣に複数の事業所が存在し、利用者の移行が現実的である場合には、「著しく損ねる」とは評価されません。この点は非常に重要で、事業所単体ではなく「地域全体の資源状況」で判断される点に注意が必要です。
また、「意図的な低工賃運営」も論外です。
給付費による補填や不適切な収支処理によって工賃を維持していた場合は、むしろ指導・処分の対象となる可能性があります。
実務対応|例外に該当するために必要な準備と戦略
この例外を視野に入れる場合、事業者としては「客観的な根拠」を準備する必要があります。
具体的には、以下のような資料が重要になります。
- 利用者の代替困難性を示す資料
- 地域の事業所状況(定員・空き状況等)
- 受入れ拒否や困難事例の記録
- 工賃向上の取組状況
これらを通じて、「この事業所を残すべき合理的理由」を説明できるかがポイントです。
ただし、何度も繰り返しますが、この例外には明確な基準は存在しないので上記要件を満たしたとしても、札幌市がその裁量で例外として認めるのかどうかは全く不明です。むしろ認めてくれないと考えておいた方が良いでしょう。
ですので、不確定要素の大きい例外事例にすがるよりかは、最も重要なのは、そもそもこの例外に依存しない経営体制を構築することです。例外はあくまで不確実であり、将来的に継続される保証もありません。
したがって、基本戦略としては、
- 工賃3,000円の達成
- 生産活動の強化
- 利用者構成の見直し
- 記録の日常化と明確化
といった本質的な改善を進めることが不可欠です。
まとめ|例外に頼るか、基準を満たすかの分岐点
今回の札幌市の運用は、明確に方向性を示しています。
それは、「基準を満たせない事業所は原則更新しない」というものです。
その中での例外は、「どうしても残さなければ利用者が困る場合」に限られる、極めて限定的な措置です。
したがって、事業者としては、
- 例外に該当するかを冷静に見極める
- 該当しない場合は早期に改善する
という判断が求められます。
最終的には、「事業所を守るか」ではなく、「利用者にとって必要な存在か」が問われる制度であることを理解することが重要です。

